YasujiOshiba

ゴッド・オブ・バイオレンス/シベリアの狼たちのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

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U次。23-128。ようやくキャッチアップ。ずっと気になっていた作品。配信でみつけてクリック。よい。これはよい。

原作はニコライ・リリンの2009年の『Educazione siberiana』(シベリア人の教育)。ロシア出身でイタリアに帰化したリリンによる小説だが、自身の経験に基づいて、そこに想像力を働かせたものだという。したがって、どこまでが本当なのかわからない。ただし、ロシア語には翻訳されていないという。

この小説の映画化を託されたのがガブリエーレ・サルヴァトーレス。この人は最初はミラノを拠点にしてた人だけど、出身はナポリ。初期の作品はロード・ムービーであり青春グラフィティ。大きな物語を避け、カメラの前に起こることを追いかける感じがよかった。

『エーゲ海の天使』(1991)は米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞していて、この脚本はカルチャーで読んだ。なかなか面白かった。その後しだいに原作ものに向かい、『ぼくは怖くない』(2003)なんてアンマニーティの小説をみごとに映画化。公開されたときはインタビューをしたけど、知的ですごく感じの良い人だった。

最初はすごく素人くさくプライベートな眼差しで語る語り口がよかったんだけど、ストーリーテラーとして洗練されてきて、誰でも楽しめる娯楽作品をどくとくのスタイルで撮るような職人になってきた。

この映画もよい。マルコビッチの存在感と、エレノオラ・トムリンソンの白痴美の演技だけではない。リトアリアの映画初出演の俳優たちのリアルさが、みたことのない風景のなかに溶け込んで、ぼくたちの眼差しをひっぱってくれるのだ。

しかも時代は、ソビエト連邦のころから、壁の崩壊を経て、チェチェン紛争までのスパンを持つ。知っている時代なのだけれど、知らなかった出来事が重なるなか、シベリア人の共同体の美学が描き出される。

曰く、金は盗んでもよいが金持ちから。曰く、女は犯さない。ドラッグには手を出さない。曰く、名誉を守るためなら殺しは許可される。そして、身体中に掘り込まれたその人物の出自を象徴するタトゥー。

どこまでが本当かどうかわからない。それでも、イタリアのマフィアやカモッラのような、古い地層が地表に出たような共同体を想起させる。そこにある道徳は美学であり、同時に堕落を運命付けられた忌まわしいものを含んでいる。

シベリア人の教育とは、堕落に向かう時の流れのなかでかき消されそうになりながら、そのかすかな響きをここに増幅させてくるというわけだ。

いい話の展開だと思ったら、脚本には Stefano Rulli と Sandro Petraglia の名前がある。なるほど、この二人の関わった作品にまちがいはない。
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