南

見えざる敵の南のレビュー・感想・評価

見えざる敵(1912年製作の映画)
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グリフィスは今作で初めてリリアンとドロシーのギッシュ姉妹を主演に据えた。

「強盗により自宅に監禁された二人の女性が主人公のサスペンス」

という、100年近く後の『パニックルーム』などにも見られる型の作品だ。

前半シーケンスでは兄と妹の仲睦まじい様子、および若者同士の淡い恋が描かれ、同時に敵が暗躍する様子も並行して提示される。

ここまでで観客に事件を予感させつつ、空気を十分に緩和させてから、後半で一気に緊張感をみなぎらせるシナリオとなっている。

いわゆる「最後の瞬間の救出」におけるカットバック応酬が見事で、自動車のスピード感との相乗効果で切迫したムードが際立つ。

さらに「監禁されたヒロイン達からは犯罪者たちの姿が見えない」という状況もヒロインたちの不安感を煽る要素で、これは『見えない恐怖』や『暗くなるまで待って』などの先駆けとも言える。

画面いっぱいに映るピストルがゆっくりと観客の正面、つまり少女たちに向けられる大胆な構図も強い印象を残す。

この時、恐慌をきたした彼女たちの意識は、壁の穴から自分たちを狙う銃口だけに向けられている。

観客をギョッとさせると同時に「恐怖で視野が狭くなった登場人物の精神状態」まで表現されており一石二鳥だ。

グリフィスの完成された編集技術、そして効率的かつ効果的な演出など見どころ満載の小品である。
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