Bellissima

フルートベール駅でのBellissimaのレビュー・感想・評価

フルートベール駅で(2013年製作の映画)
4.0
『フルートベール駅で』@HTC有楽町

ズシッとくる作品でした。2009年の元旦早朝、アメリカ西海岸駅構内で、黒人青年オスカー・グラントが警官に射殺されるという事件が起りました。この事件を元にオスカーの死に至るまでの1日を描いた作品。

話の描き方は色々あったとは思います。ドキュメンタリーで証言を積み重ねていくやり方や、オスカーの1日と射殺した警官の1日が同時進行していく形でラストに集約していくやり方もあったと思います。告発によってこの事件を糾弾するより、オスカーとはどうゆう人物だったかだけに焦点を絞り扇情的にせず普通の生活を送っていた人物が凶弾に倒れるというショッキングな事実にしたことが結果的に訴えるものが大きく正解だったと思います。

持ち前の社交能力や優しい顔を持つオスカーのもう一面の欲望に流されやすく甘えによって起す負のループから抜け出せない弱い部分もきちんと描いています。彼のその弱さに気付いているママは突き放す事をします。彼に自分を見つめ直す時間を与えるのです。妻の事、娘の事、ママの事、何よりも家族を大切にする彼はこのままでは失ってしまうものの大きさに気付いて前向きに変化していきます。彼にとってここで描かれる元旦へのカウントダウンは、年号が変わるだけではない「新しい自分」に生まれ変わるとても重要な意味を持っていたのです。

野良犬の件は、自由気侭に生きてきたオスカーがこのままの生活を続けていては犬死しか待っていないと死の切迫を感じる重要なシーンでもあります。またこれが後の無抵抗の人間が銃弾に倒れる姿に重ね合わさるのがなんとも言えない皮肉を感じさせます。見る者は物語の終着が分っているだけに、生を堪能している彼を見ているのがとても心苦しい。そしてドラマの愛娘の真直ぐな眼差し、実物の愛娘の俯き目線が胸に刺さり続ける。

どんな人間にも死は訪れます。しかしこの理不尽な死の迎え方に誰が納得いくでしょうか。こんな物語(映画)は見たくないという人もいるでしょうが、私は現実に起った事として確と目に焼き付けなければいけないと思いましたよ。見て良かったと思った秀作です。
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