乙郎さん

黒い下着の女 雷魚の乙郎さんのネタバレレビュー・内容・結末

黒い下着の女 雷魚(1997年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 ピンク映画強化月間その3

 瀬々監督の作品は今まで正直言って苦手だったんだけど、この『雷魚』はすんなりなじむことができた。要は、苦手だったポイントというのは頭のどっかに「ロケーションや構図はすごいけどそれだけじゃない?」という疑念があったからで、ただこの映画を見ると、それだけじゃなく色々な要素が詰め込まれており、僕好みの映画になっていた。
 内容は札幌テレクラ殺人事件とNEC不倫殺人事件を元にしているらしい。実在の事件を映画に反映させる精神は『ヘヴンズストーリー』に引き継がれている。確か『八日目の蝉』も後者の事件を元に取っていたと思うけど、着眼点の違いでこうも印象の異なる映画ができるのかと考えると興味深い。過去に遺恨を持つ男性がガソリンスタンドで働いている。給油しに来た女性はテレクラで知り合った男性と一緒にいる。その後、ホテルにて女性はテレクラの男性を殺害する。ガソリンスタンドの男性はなぜかつじつまを合わせる証言をする。

 先に述べたとおりロケーションや一枚絵としての構図が素晴らしい。それで、この映画は実にこの寂れた街のどこにも行きようがない感触というのが再現されていて、田舎に住む自分としては肩入れせざるを得ない。さびれかけた工業地帯、田んぼ、溝川とか、そういった要素ひとつひとつが、ここから出ていきようのない気分を締め付けてやまないし、その感触は確かにダウナーではあるのだけれども不快ではない。殺人と言う凶行が行われる舞台のラブホテルはけばけばしい赤に壁をしている。
 結局のところ、殺人という行為も、ここから別の場所へ出ていくための儀式であり、かつそれすらも出口たりえない。けれども、この締め付けるような鬱蒼とした映画の中で、ラストのボートに火をつけるところ(おそらくはタルコフスキーオマージュ)だったりは、映像的強度を増していて、その絶望感だけが救いなのだ。

 おそらくは落ち込んだ時に観返すでしょう。傑作!
乙郎さん

乙郎さん