さわら

徳川セックス禁止令 色情大名のさわらのレビュー・感想・評価

5.0
都内に『思い出のマーニー』を観に来たのに、何を間違ったか本作を鑑賞。本作を観るに至った思考の変移を自分でも解せぬが、いいもんみたなという妙な充足感を感じている(伝説的映画『エロ将軍 二十一人の愛妾』と同時上映のインパクトといったら‼︎)。
時代は徳川家斉の治世下、徳川家は絶倫将軍の甲斐あって子供に多く恵まれる。その中の1人、清姫が九州の小倉家に嫁ぐことになる。しかし、田舎大名・小倉忠輝は女性嫌いで34歳にして未だ童貞。そのため、清姫と忠輝の夫婦生活は上手くいく筈がない。呆れた家老たちは世俗俗事に長けた地元商人に相談する。そのとき、忠輝は生きたフランス人形・サンドラと出会い、性に開眼していくのだが・・・。
後ろに座っていた外国人は、この映画をどう観たのかすごく気になった。サムライ、ハラキリ、ヘンタイ‼︎どれも満載で、楽しんでくれたのだろうか?それともキリストを冒涜する演出もあったので、癇に障ったのだろうか?すごく気になる。
鈴木則文監督特有のエロユーモアに隠れて、世情を見事に風刺・皮肉っている姿勢が健在でとても気持ちいい。
まずは忠輝の出す悪法、禁令175條(セックス禁止というもの)!これそのものが、大きな皮肉である。当時の日本で社会問題となっていた「日活ロマンポルノ摘発事件」、そしてその根底にある刑法175条・わいせつ罪頒布罪。これへの鈴木則文なりの反撥であることは一目でわかるところである。本作で忠輝は自分の出した悪法で愛する人を失う羽目になる。「悪法もまた法なり」と痛感し絶望する忠輝の顔、なんと監督の反逆的な態度であろう。そして極めつけはラストの文言である。
“あらゆる生命の根源たる性を支配し、管理検閲することは何人にも許されない。例え神の名においてもーー”
全俺が、カッコよすぎて濡れた‼︎‼︎要は刑法175条というのは、憲法で認められた「表現の自由」に抵触する可能性もあるという注意を促しているわけ。映画自体はとても下衆くて面白く(「栗鳥の巣」で爆笑して腹痛い)、それでいてピリリと山椒のように社会を風刺する。うまいなーすごいなー、これこそ名人芸である。
本当に惜しい人を亡くしたと、今になって悲しみが湧き上がってくる。集団的自衛権が容認され、川内原発がまもなく再稼働されそうである。また子供たちの失踪が絶えず、政治家までもが脱法ドラッグに手を出す、僕たちの個人情報すら危機にさらされている現代。大島渚にせよ鈴木則文にせよ、彼らの目に今の世の中はどう映るのだろう。そんなことを思いながら帰途につきました。季節はもう夏休みを迎えようとしています。

@新文芸坐