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ワン チャンスのLCのレビュー・感想・評価

ワン チャンス(2013年製作の映画)
3.9
面白かった!

まさか例のオーディション番組の、あのお兄さんの顔をまた見るとは思っていなかった。本人だ…!
緑のシャツのお兄さん、本当に本当に、本当に厳しい人という印象がある。耳も目も確かで、だからこそ反論しづらいことを、更に棘も毒も意に介さず発言する。異国の地で、テレビの前で恐怖した記憶がある。
そんな彼から「素晴らしい」という言葉を引き出したのは、これはとんでもねえやったなおい!である。その後の活躍は、番組のこの審査の厳しさに信頼があったからこそ、という部分もある。
ちゃんと実力を認められたな…!

いじめられっ子で、家族の中にも自分の好きなことに理解を示さない者がいる中で、それでもオペラを手放さなかったことがまず凄い。
そして、チャンスを掴んでも実力を発揮できなかったりトラブルがあったりして、更に憧れの人に評価されなかったりもして、自信持てるようになるわけねえだろというところからまた挑戦する、やっぱり凄い。
そんな彼を支える人たちも、ひとりひとりが偉大であった。
お母さんはお父さんが不機嫌になることに萎縮せず音楽を流してくれる人だし、店長さんは何だかんだずっと親身になってくれる人だったし、彼女も生活を支え、彼の歌うことが好きな心を支えた。イタリアでの選抜や、歌のパートナーの態度の変化だって、忘れられない喜びだろう。
たった1人の人間が、これだけの人と思い出に支えられながらも、それでも挫折が続いたり、たった1人の評価が忘れられなかったりする。
本人ができないと言っても、それぞれがそれぞれの思いの寄せ方をしている。「できる、声は出る、美しい声なんだぞ」と、そう言ってくれる人がいる。

オペラは、もちろん歌を聞くことも醍醐味なのだけど、会話部分が歌うよう、ではなく、台詞を言うような部分があったりして劇みたいな要素もあるし、舞台に様々な視覚的にうったえる仕掛けもあって、絵画とか舞台芸術の要素もある。見てみると、結構人によって魅了される部分が違ったりする、そんな面白さがある。
オペラ歌手は、やはり凄い人たちで、彼らは音の高低を如何にコントロールして歌い上げるかという技術はもちろん、どんな音を出すかということまで身に付けている。話を聞くと、「首の筋肉をこう動かしてこの声を出す」とかって、具体的に説明できる人が多い印象がある。己の喉が持つ本来の音域を超える為の技術を体得している。そして更に、声をまっすぐ届けたり、時には震わせたりする。

主人公の活躍も嬉しいけれど、周りの人の様々な愛も、見ていてじんわり沁みる。そうさ、店長みたいな人だって出世できるんだぜ。素直な気持ちを言える間柄って、見ててクスッとできるね。
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