ガリガリ亭カリカリ

シンプル・シモンのガリガリ亭カリカリのレビュー・感想・評価

シンプル・シモン(2010年製作の映画)
4.3
クライマックスでフィックスのカメラが同一ショット内で手持ちになる瞬間があって、それってデジタル処理なのかもしれないけれど、三脚に置かれたカメラを物理的に持ち上げる、「今、カメラを三脚から外して被写体を撮りに追いかけたい」という意志が映っていてエモかった。

ハートフル・ヒューマニズム・ラブコメみたいなのだったら嫌だな……と観る前は疑っていたけれど、めっちゃ笑えたし、まんべんなくノリも軽くあり続ける、感動ポルノを作劇することなくアッサリと終わるのも含めてかなり好感を抱いた。

元カノや両親に対する「解決」や「和解」を奪還するかのような作劇をオミットしているのが誠実。全ての関係者を主人公がハッピーにする、なんて下品なことをしていない。主人公とのコミュニケーション不全の彼らを、物語が半強制的に「良きこと」側に取り込もうとしないので、その辺はストレスが無い。
元カノに至っては、彼女もかなり可哀想な立ち位置だったにも関わらず、一貫して拒絶のスタンスを崩すことなく、彼女の家のドアは開かれるが、部屋には誰も入ることなくやがて閉められる、というアクションだけで全てを語る手際の良さ。

こういった「観客のためにしかない余計な物語」をキャラクターたちに付加しない、という作り手の眼差しには同感する。キャラクターの現実味の有無というよりは、どんなに戯画化されていようとも、彼らが確かにこの世界で生きている人間であることを実感させてくれる。

宇宙のモチーフも主人公の内面世界を表現するには相応しかったし、活字や図形などのCG演出もさり気なく駆使していて、そこかしこに飽きさせない工夫が感じられた。

イヤホンでお気に入りの音楽を聴きながら日常を眺めると、まるでビデオクリップのように感じるよ、とヒロインに勧められて主人公が音楽を聴くシーンが良かった。シーンというか、分かる分かるとなった。その後の主人公、ヒロイン、兄の3人のモンタージュで伏線回収もしてる。

「絶対に僕に触るな!」という主人公に対して「わかった、もう絶対触らない」と言ったヒロインが、シーンが切り替わると3シーン連続で触りまくっているのも良いギャグ。

お絵描きゲームの際に「水」というお題で「水分子」を描く主人公。

レンタルビデオ店で主人公に好きな映画を聞かれた女性が「人が死ぬ映画しか観ない。暴力と血まみれの死体が出る映画じゃないと云々」と話していると、主人公はダメだこりゃと去ってフレームアウトする、その同じタイミングで、明らかにホラー好きそうなオタクの青年が女性をホの字で見つめている、というギャグも最高に良かった。