よしまる

おやすみなさいを言いたくてのよしまるのレビュー・感想・評価

4.0
 ついでにもう1本、ニコライ・コスター=ワルドー出演の北欧シネマ。

 こちらはドキュメンタリー風のリアルな手触りが特徴のエーリックポッペ監督による、ひとりの女性戦場カメラマンとその家族のドラマ。

 主役のレベッカはもう50歳を迎えようというのにまだまだ美しいジュリエットビノシュ。戦地へ赴き戦場写真を撮り、時には生死の境をさまようレベッカを支える夫のマーカスをニコライが演じている。

 レベッカには二人の娘がいる。この子たちのために死と隣り合わせのジャーナリスト稼業を引退することも考えてはいるけれど、お姉ちゃんのステフは学校の課題でアフリカの研究をしていることから母親の写真に興味を示し、現地への取材に行きたがる。アフリカで何が起こっているのかというよりも、母親が外で一体、命を賭してまで何をしているのかを知りたがっているように思えた。この子役2人もめちゃくちゃうまいのだけれど、やはり観るべきは円熟したビノシュの演技だろう。

 大切な家族と、世界のあちこちに現在進行形で存在する悲しみの現場を報道するという天命ともいうべき仕事。自分にできること、自分のやるべきことは果たしてどちらなのか。複雑極まりない感情の揺れを、ビノシュは見事に表現していて恐れ入る。

 自分には遠い世界の話で、なかなか共感はしにくい。ケニアの難民キャンプでレベッカの取る行動には誰しも、アカン‼︎なんでー⁉︎ってなる。誰かがやらなければいけないと思っていても、どこかで自分とは関係のない人がやってくれればいい、ましてや夫や娘のいる身でやることじゃないと、そんなふうにしか考えられないなぁと、ちょっと見て見ぬふりをしているような気持ちでずっと観ていたのだけれど。

 終盤、娘のステフの研究発表のシーンには思わず涙が溢れかけた。自分がどうとか、そんな話ではない。アフリカに訪れて自らシャッターを押したステフだからこそ気づいた想い。
 それを受けてのビノシュのラストシーンにはなんとも言いがたい、深い余韻が残る。彼女は結局、死ぬまで答えを見つけることはないのだろう。

 ポッペ監督自身が、実際に戦場カメラマンとして活動した経験があるからこそ伝わる、カメラを向ける意味、命をかける意味をあらためて考えさせられる良作だった。

 原題の「1000回おやすみなさい」は、ロミオとジュリエットの一節。