はちまる

おやすみなさいを言いたくてのはちまるのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

冒頭のシーンで一気に引き込まれる。アフガニスタンのカブール。女性報道写真家・レベッカのカメラの先には、これから自爆テロへ向かう女性が爆弾を巻き付けられる姿があった。静かで厳かな雰囲気。家族と思しき女性たちから祈りのような言葉を囁かれている。凄惨な光景に動じることなく、レベッカはシャッターを切り続ける。女性は家族に最後の別れを告げ、車に乗せられる。レベッカは同乗して写真を撮り続けるが、その先で爆発に巻き込まれてしまう。

舞台は変わり、アイルランド。怪我を負ったレベッカは家族の待つ家に戻るも、そこには疲れ切った夫の姿があった。妻の死に怯えながらの生活にはもう耐えられない、仕事をやめてくれ、と。娘たちとの間にも溝ができていた。

家族との交流の中で、レベッカは仕事か家族かの選択に迫られ、特に思春期の娘・ステフと語り合うことで、自らを省みてゆく。なぜママは私たちを放って戦地に向かうのか、と問うステフにレベッカは答える。辞め方はいつも探している。でも、自分の中に抗えない衝動がある。怒りを表現することで自身が救われたのだ、と。衝突を繰り返しながらも、ステフはレベッカの姿勢に深い理解を示すようになる。

クライマックスともいえるシーンでステフはこんなことを語る。

「世界の子供たちは私のママを必要としている、たぶん私よりも、ずっと」

この言葉に決心を固めたレベッカは、再び戦地に赴く。

家族を捨てて仕事を選んだのではない。家族を愛しているからこそ、彼女は世界に見捨てられた子供たちの母親であり続けるのだろうと思う。

彼女は再び冒頭の地に向かい、自爆テロの準備の様子を取材する。しかしカメラを向けようとしたとき、彼女は腰を抜かしてしまう。

無抵抗に爆弾を巻き付けられているのは、まだあどけなさの残る少女だった。それこそ、ステフと同じような年齢の。

「止めないと…これを止めないと…」

こんなことがあってはならない、だから彼女は撮らなくてはならない。家族との幸せを捨ててまで撮りたかったもの。それなのに、レベッカにはどうしてもシャッターが切れない、どうしても切れない。

無力感に打ちのめされた。世界は簡単に変わらない。そんな現実を突きつけられるように思った。元報道写真家の監督は叫び続けるのだろう。写真や映画や、なにかの形で怒りを表現し続けるのだろう。
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