YYamada

ファーナス/訣別の朝のYYamadaのレビュー・感想・評価

ファーナス/訣別の朝(2013年製作の映画)
3.5
~脱「勧善懲悪」の「新西部劇」~
【ネオ・ウェスタンのススメ】
『ファーナス/訣別の朝』(2013)

◆本作の舞台
 ペンシルベニア州ノース・ブラドック
◆連関する時代背景
・1875年 / カーネギー家により、
 ピッツバーグ郊外ブラドック地区に
 鉄工所を創設
・1970年代 / 米国鉄鋼業衰退により、
 ピッツバーグ地区の人口大幅減
・2003年 / 米国のイラク軍事介入
★2010年代前半 / 本作の舞台

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・溶鉱炉(ファーナス)から絶えず白い煙がのぼる鉄鋼業の町ブラドック。年老いた父親の面倒を見ながら製鉄所で働くラッセルは、貧しいながらも恋人リナと過ごす時間にささやなか幸せを見出していた。
・しかし、イラク戦争で心に傷を負った帰還兵の弟ロドニーが、ある事件に関わったことから、ラッセルの運命は大きく変わってしまう…。

〈見処〉
①奪われた家族の絆、砕け散る愛。
 男は世界の闇へ堕ちていく。
・『ファーナス/訣別の朝』(原題: Out of the Furnace)は、2013年に製作されたクライム・ドラマ映画。
・米ペンシルバニアの田舎町を舞台に、地元の犯罪組織と関わってしまった弟を助けるため、元受刑者の兄が決死の覚悟で戦いを挑む姿を描いた骨太の本作。元々リドリー・スコットが監督、レオナルド・ディカプリオが主演を務める予定だったが、スコットとディカプリオは共にプロデューサーに回り、『クレイジー・ハート』のスコット・クーパーがメガホンを取り、クリスチャン・ベールが主演を務めている。監督・主演の2人は、後のネオ・ウェスタンの傑作『荒野の誓い』(2017)でも、タッグを組むことになる。
・また、本作は共演陣がとにかく豪華。敵の麻薬密売組織のボスにウディ・ハレルソン、PTSDに苦む帰還兵にケイシー・アフレック、地元警察役にフォレスト・ウィテカー。また、クリスチャン・ベールを取り巻く人々として、ウィレム・デフォー、
ゾーイ・サルダナ、サム・シェパードらの名優を配置しているのが、大きな見どころだ。

②ネオ・ウェスタン
・2007年にコーエン兄弟が製作した『ノーカントリー』が始まりと言われる新たな映画ジャンル「ネオ・ウェスタン」。
・これらは現代または過去のアメリカを
を舞台に、従来の西部劇の価値観を反映した作品を指し、その代表格はテイラー・シェリダンが脚本を務めた「フロンティア」三部作が挙げられる。
・ジャンルの定義化は難しいが、おおよそは以下のとおり。
❶暴力的な背景を持つキャラクターたちが独自のモラルを有している。
❷主人公が正義または自身の生き様を探求している。
❸後悔の念を抱く主人公の行動に「勧善懲悪」な従来の西部劇との繋がりを見せる。
❹フロンティア精神の活発さ、マイノリティの悲哀のいずれかまたは双方を描く。
❺アメリカ西部を舞台としている。

本作においては、❺を除く❶~❹の条件を満たしている。

③結び…本作の見処は?
◎: 純粋な「勧善懲悪」ドラマではなく、登場人物の全てが脛に傷を抱え、社会生活の中でもがいている。ラストシーンのクリスチャン・ベールの重苦しさが、本作の重厚さを示している。
○: ピッツバーグ郊外の製鉄所を舞台とし、帰還兵の苦悩を描いた名作『ディア・ハンター』(1978)と類似性が高く、比較鑑賞にうってつけの作品(まだ未対応)。
○: 現在では再集結困難な豪華キャスティング、それぞれのパブリック・イメージに沿った配役が素晴らしく、ウディ・ハレルソンの悪役ぶりが印象的。また、『アバター』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のガモーラ役で有名なゾーイ・サルダナは特殊メイクなしの美しい姿を披露。
▲: 重苦しい。救いどころがない。作品のハイライトに乏しい。
YYamada

YYamada