komo

プールサイド・デイズのkomoのレビュー・感想・評価

プールサイド・デイズ(2013年製作の映画)
4.5
14歳のダンカン(リアム・ジェームズ)は内向的な性格で、母親と再婚する予定のトレント(スティーヴ・カレル)と馴染めずにいた。
夏休みをトレントの別荘で過ごすこととなるが、そこで知り合った人たちの中でも浮いた存在になってしまう。
家を逃げ出すようにして街を歩いていたダンカンは、オーウェン(サム・ロックウェル)という底抜けに明るい男と出会う。そして彼に誘われるがまま、ウォーターパークでアルバイトを始めることになる。


【人生の中身は自分にしか見えない】

フィルマでのレビュー総数は少ないのに、観た人が軒並み高評価を付ける本作、ずっと気になっていました。
初っ端から大人が子供に向けて『お前は10点満点中3点だ』などという台詞を放った時には、自分この映画ダメかも…と思ってしまいましたが、心配無用でした。
序盤では大人の都合に振り回され、上から目線で否定され、憂鬱を極めているダンカンですが、オーウェンという年上の友人と出会ってからの展開の面白さと言ったら!
誰と話すのにもしどろもどろだったダンカンが、その内側に眠っていたユーモアと洒落心を徐々に表へ出してゆきます。
まさにウォータースライダーのような爽快感のある物語(*´▽`*)
ぶっ続けで字幕と吹替をそれぞれ観ましたが、どちらで観てもオーウェンのキャラクターが全く嫌味なく楽しめました。

根暗少年が明るい男に感化され変わってゆくストーリーは王道らしさがありますが、浮気されて傷つく母親など、ビターな大人事情も描かれます。そこも含めて、登場人物の葛藤に対する前向きなメッセージに溢れた作品です。

引っ込み思案で決断力のないダンカンは、オーウェンに矢継ぎ早に話しかけられ、『YES』という回答を導き出され、なんでもかんでもチャレンジさせられることによって救いを得ました。
そして何よりも彼に必要だったのは、説教をしてくる者ではなく、対等に付き合ってくれる存在。
トレントは、”いい加減”な判断でダンカンを点数付けし、否定しましたが、オーウェンは”いい加減”な柔軟さを持ってダンカンを肯定したのです。
点数勘定よりも、ものさしのない世界がダンカンには必要であり、オーウェンは”大人”というカテゴリの中にいながらそれを与えてくれました。

ダンカンの母親パム(トニ・コレット)は、ダンカンとは対照的でした。
自ら幸せを掴むためにトレントとの愛情を深め、再婚を決意しています。
しかし自分で幸福を掴んだという人生経験があるからこそ、何かを失うことを恐れる思いも強くあります。
トレントが浮気しているという決定的な事実を知ってしまうパムは、それでも彼を責めることはせず独りで苦しみます。
ものさしを望まないダンカンとは違い、パムは『自身のものさし』の中で生きていました。
彼の浮気は真実じゃない、例えそうだったとしても追求すべきではない、と見て見ぬフリをし、心に蓋をしてしまう。彼女の中のものさしが示す値はとっくに限界を迎えているのに、それでも我慢するということが彼女のものさしの価値観です。

人は大人になるとその人生経験の積み重ねから、自分のものさしに自信を持ってしまいます。あるいは、それが自分自身を束縛するものだとわかっていたとしても、簡単には捨てられない。

そういったところもありダンカンとパムは親子でありながら相容れないのですが、ラストシーンでその壁はすっかり解消されました。




↓以下ネタバレ↓









帰り道、走行中の車内でパムはトレントの隣の席を抜け出し、後部座席のダンカンの隣に座ります。
ラストシーンはたったそれだけで、特別な台詞はないのですが、それが2人にとってどれだけ満たされた瞬間だったのかは伝わってきます。
パムは最後、”母親だから”、”大人だから”、”ひとりぼっちでかわいそうだから”という義務感抜きで、ダンカンの人間性を慕って彼に寄り添うことができました。
そして反抗的であったダンカンもまた、隣の母親の存在をそっと受け入れます。
バイトをしていることすらパムに隠していたダンカンですが、きっとこのあとはウォーターパークでの思い出を母親にたくさん話すのでしょう。

ダンカンとオーウェンの別れのシーンももちろん良かったです。
オーウェンから、明瞭な会話をするよう導かれていたダンカンが、最後は言葉抜きでオーウェンをただただ抱きしめる。最高の結末でした。

人より劣っていると思われていたオーウェンは、旅立ちの前に『追い越し』という手段を披露して喝采を浴びます。
しかし最後は、オーウェンやパムと”対等”に肩を並べています。
爽快なだけでなく、人と人の距離に心が温かくなる作品でした。

また、チューブの中でどうやって追い越しができたのかという種明かしがされないのも、『人生の中身や価値はその人にしかわからない』というメッセージのように思えました。

夏が来たらまた観たいと思える、良い映画でした。サム・ロックウェルが今までより遥かに好きになりました💕
komo

komo