イホウジン

007 スペクターのイホウジンのレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
3.7
クレイグボンド過去作のいいとこ全部盛り

今作を因数分解してみると、①『カジノ・ロワイヤル』でのボンドが殺し屋である必然性への問いかけと、本気で愛するボンド・ウーマン②『慰めの報酬』での激しいアクションと、ボンドと共に戦うボンド・ウーマン③『スカイフォール』での重厚な世界観と007シリーズそのものの問題へのメタ的な言及、というように、過去作を観ていれば既視感のある映像がひたすら続いていることが分かる。
なので新しいテーマに果敢に挑んできたクレイグ版の中では比較的“安定”した面白さがある。派手なカーアクションや大金を注ぎ込んだことが一目でわかるような映像の数々、絶え間なく繰り広げられる戦闘、少々の謎解きやユーモア、、、などなど前作の強烈で重みのある展開から一転、娯楽映画としての007が復権したかのようである。
だがそれは、この映画から固有の面白さや真新しさを感じられないということもまた意味している。確かに、往年の宿敵であるスペクターと接触しボンドの過去へと迫る緊張感は印象的だったが、多くの見所が既に前作までに登場したものであったために、ごく平凡なスパイアクション映画の類との差異が感じられないという状態になっているように見える。エンターテインメントを提供するという意味では問題ないのだろうが、独創性や作家性を示してきたグレイグ版の中では、いささか保守反動的な内容であった。

とはいえいつになく謎の多い今回のボンド・ウーマンが次作にもキーパーソンとして登場することを考えると、まだまだ見方が変わりそうな映画ではある。
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