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思い出のマーニーのangie2023のネタバレレビュー・内容・結末

思い出のマーニー(2014年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

「自分のことが嫌い」という強烈な告白から正直に始まるこの物語は、終始、杏奈の世界の中で展開される。本当にそうなのだ、最初から最後まで、杏奈は常に告白や対話を続ける。そしてその旅路の先に見つかったのは、自らのアイデンティティであり、出生であり、自分を形成する歴史であった。

「自分のことが嫌い」と正直に強く言い放つジブリヒロインは、今までいたのだろうか。杏奈は、「自分のことが嫌い」なことに堂々とし、そしてある種の自信を持っていた。私はまず、杏奈のこの強い告白に驚き、そして同時に、自分(たち)に似ている何かを感じ取ってしまった。それは普遍性であり、気持ちの悪くも、共感もできるような、そんな痛々しさであった。

杏奈はワガママで口が悪く、自分の殻に閉じこもり、そして、自らを知らなかった。「捨てられた」「お金をもらっている」という、他者の嫌な部分ばかり目につくばかりで、彼女は「自分のことが嫌い」という一点においては自らを知っているが、それ以外のことは、自分をなんら知らなかった。そう、12歳というのは(私にとっては、14歳ごろまでは)、自分を知りたくてしょうがなくて、同時に知りたくもないのだ。

そんな中で現れた自らの化身=マーニーを、「大好き」と正直に告白することは、同時に自らを抱擁し、愛すことである。マーニーの明るさはたとえ自分の憧れや、寂しさの表れであったとしても、はたまた、病的な逃避に見えてしまったとしても、だけど、マーニーとの時間は紛れもなく、彼女が自分を知り、自分を認めるための大切な時間なのだ。マーニーとの時間は、微笑ましくも、スリリングだった。すぐに消えてしまうような、そんな不確かさがある。しかし同時に、わがままで孤独な杏奈が、マーニーの前では優しく振る舞えることに、少しの懐かしさを覚える。自分との対話は、自分が欲しいように、都合がいいように解釈しがちであることは、経験したことのある人ならよくわかるだろう。自分が欲しいもの、すなわち、自分を捨てずに、そして愛してくれる他者…そんな人物を求め、そして創り出してしまうのだ。だから、そんな都合のいい世界では、自分はヒーローでいられる。

杏奈はいとも簡単に、マーニーを自分が作り出した友達だと正直に言い放つ。それはもしかしたら、マーニーの存在をファンタジックに信じていた観客(それは、杏奈よりも年齢が幼い観客が多いかもしれない)にとっては、ショッキングな告白だろう。杏奈はそういう冷静さや冷酷さを持っている。しかし物語は、このままでは終わらない。ここからがある意味のファンタジーであるのだ。自分が作り出した自らのもう一人の姿であるはずのマーニーは、自分との対話を超えて、アイデンティティを探る旅路へのキーパーソンとなっていく。

マーニーの日記が発見され、そして杏奈の自己対話にも、矛盾や衝突が始まるようになる。マーニーがどんどん、杏奈のもとを離れようとしていく。自己対話は、しばし矛盾や衝突が起きるものであり、この波乱を乗り越えることで、何かしらの変化が起こっていくはずだ。だが、この物語においては、そうした杏奈の中の問題を超えて、ファンタジックに、自らを形成する歴史やアイデンティティを明らかにする方向へと向かっていくのだった。その謎々が明らかにされるとき、すでに杏奈は、離れゆくマーニーを許していた。離れていく、自分を捨てていく他者を認めていた。雨は上がり、太陽で照らされる。彼女の自己対話の矛盾は、ここで一旦落ち着くことになるのだ。そう、彼女は自分を愛すことを知り、そして、自分の葛藤を認めた。

この地点で、この物語は終焉を迎えてもいいはずだが、更なるサプライズは、歴史の証人(本物のマーニーを知る人物)によって成し遂げられる。マーニーが杏奈の祖母として実在したという展開は、論理的な物語を好む観客にとっては戸惑いを引き起こし、余計だと思えるかもしれない。だが、私にとってそれは、杏奈の自己対話の地続きであると思うのだ。すなわち、自己発見のもう一段階として、彼女は自らのアイデンティティ、すなわち、その青い目の秘密を知ることで、自らの歴史と、そして「普通ではない」自分を認め愛すことへと向かうのである。マーニー、大事な他者であり自分自身であるその人物は、自分の歴史を教えてくれる大切な家族だった。杏奈が非常に複雑な主体であることは、物語の冒頭から露骨に示され、物語に伏線を張るわけであるが、それがマーニーの存在を持って説明し、そして、複雑さを肯定するような優しさと温かさで溢れさせる、その物語の種明かしは、正直驚き、そして涙が止まらなかった。もう彼女は、自分を嫌ってはいないだろう。自分を守ってくれたマーニー=祖母の存在と、受け継がれるヘアピンを知った彼女は、もう、マーニーを自分の化身としてではなく、自らの祖母として胸の中にしまい、そして、軽やかに日常へと戻っていくのだ。

自己対話から始まったこの物語は、次第にアイデンティティを探る旅へと舵を切っていく。12歳の少女は、夢の中で自分を認め、愛し、そして、歴史を知っていく。確かに、他のジブリの作品と比べたら、驚くほど地味だ。だが、良質さはピカイチだ。ロマン溢れる冒険ではなく、決まった場所しか出てこない、展開もあまりないという抑えられた演出だからこそ、この丁寧さが描ける。良い映画を観た、そんな満足感と温かさで、胸がいっぱいだ。
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