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(秘)色情めす市場のギルドのレビュー・感想・評価

(秘)色情めす市場(1974年製作の映画)
4.7
【仮想の母子を引き裂く娼婦の万感性】
■あらすじ
大阪の旧赤線地帯。19歳のトメはドヤ街の近くで客を引く売春婦である。
弟の実夫は少し知的障がいがあり、母よねは40歳を過ぎてなお現役の同業者。

ある日、「年増はアカン、若い子に来て欲しい」との要請を受けたトメが連込み宿に向かうと、そこにはよねがあぶれていた…。
その数日後、よねから妊娠した旨を告げられるトメだったが…。売春防止法が施工され赤線がなくなってから20年。しかしながら、売春という職業は未だに根強く残っている。春をひさぐことで生計を立てるしかすべのない女性の悲哀に満ちながらも強くたくましい姿を、田中登が鋭いタッチで描いた問題作。

■みどころ
大傑作!
日活110周年記念特集上映「NIKKATSU World Selection」よりロマンポルノ枠でもあり、ロマンポルノ界の傑作と言われる田中登の代表作である。
日活ロマンポルノに惹かれて鑑賞してみたが、これが凄かったです。

映画はフリーの娼婦として食っていこうとするトメとそれを止めようとする同じ娼婦の母のやり取りから始まる。

喧嘩別れしたトメは売春を営むにつれてシマを牛耳って組織に入ろうと誘うヤクザや店から勧誘を受けて時には辛い状況に陥りながらも力強く生きている。
トメは娼婦としての顔と知的障がい持ちの弟・実夫に対する母親のような顔のニ面を持って生きているのだ。
そんな様々なしがらみと家庭を持つトメに降りかかる出来事、トメの周りの人物を通じてある悲劇的な出来事を迎えるが…


本作は日活ロマンポルノという映画形式で展開される。
モノクロで映す西成の景色、BGMと夏の風物詩が醸し出すノスタルジックな日本の夏像を描くなど絵的演出として素晴らしかったです。
が、ロマンポルノというだけあって性に対する複雑な描き方は他にはない魅力があって良かったです!
売春を通じて様々なエロを描くが、肉体と肉体が重なり合う中で
・性的に魅力あるように映す
・ドヤ街のような汚さを露呈する
・酒(媚薬?)を介した動物のように踊り狂う様
・ラブドールを介したNTR

など多種多様な方法で性を制御しながら映し、そのどれもに深い背景を内包していて見ごたえがありました。
特に映画の中であるカップルが金のためにヤクザに利用されるシーンがあるが、その中で見える寝取られの喪失感、守っていた綺麗な花が汚い人間に汚される敗北感というのを痛烈に映した挙げ句に失う物がない人間特有の狂気を現出する展開にはゾッとしました。

行為の中で汗だくになったりグラスを舐め回す姿に妖艶さが見えるけど、その周りにある背徳感・利己主義の危ない因子が纏っている薔薇のような存在に性を映していて、そうゆう演出が興味深かったです。

そんな本作はトメと実夫を擬似家族のように映していくが、その変遷も圧倒されました。
トメは実夫に会うや母親のように接し、雑魚寝して実夫に自由に触らせてくれた。
本来はお金を介して売春するという強い利己主義が働く世界の中で、実夫にだけはそのバリアーを除去する所に家庭的な温かさがあると感じました。

実夫はトメのスカートを捲し上げたり下着に顔をうずめたりやりたい放題やるが、面白いのはその姿を母と赤子をあやすように映す姿にあると思う。

まるでソナチネのような無邪気さを等身大の大人同士で行うアンビバレンスさを本作で現出していて、そこにも"性"という行為を通じて母性本能を象徴するのが面白かったです。
それだけでも特徴的な映画だが、本作の素晴らしい所はそのアンビバレンスさを壊す高低差にあると思う。

等身大の子供さがある弟が娼婦の姉を母のように接していくが、娼婦であるトメの思いやりで
実夫の精通とその先を手伝う。
そこから実夫の表情や仕草は少しずつ変わり、アイスクリームを食べながら真隣でトメが性交してる姿をなんとも思わない無邪気さが徐々に消えていく。
消えることで疑似家族のバランスが狂って、等身大の大人同士で行う行為そのものの不気味さだけが残るぶつけようのない悲劇に変わる様は圧倒されました。

ある意味、アングラな中で娼婦として生きるトメにとってドヤ街はモノクロな性の世界で新しい生き方への模索はカラフルな生の世界を現出しているのかもしれない。

そういった内容を踏まえると本作はよく出来た映画であると強く感じました。
唐突に指名手配犯に似た男の登場するシーンの深田晃司「淵に立つ」、トメと実夫のやり取りから見える北野武「ソナチネ」、ラブドールを担いだ青年から見えるダン・クワン&ダニエル・シャイナート「スイス・アーミー・マン」の元ネタぽさもあるし、いろんな映画に影響を与えた作品かも?

日活ロマンポルノを初めて観て思ったのは、寂れたゴーストタウンの中で壊れかけのオルゴール付き動く人形が踊ってる侘び寂びが良いのかなと思いました。
トメがフリフリのワンピースで踊るシーンが何回かあるけど、
・踊ってる可愛さ
・ワンピースが透けて時折肉体が見えるエロさ
・娼婦であるアングラさ
・踊っているドヤ街の怖さ
が混じって凄かったです。

性と性(さが)のグラデーションに翻弄される人々、 人間の欲望と渇望と妬みで揺れ動く様を鋭く描いていて大傑作でした。オススメです!
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