かたゆき

ポール・ヴァーホーヴェン トリックのかたゆきのレビュー・感想・評価

3.5
大企業の社長を務めるレムコは、50歳になった記念に自宅で誕生パーティーを開くことに。
様々な人々が集い和気藹々とパーティーが進行する中、急に彼の愛人と思しき妊娠中の若い女性が現れる。
戸惑うレムコ、心の平穏を掻き乱される彼の妻、引きこもりでオタクの長男、素行不良のすれた長女、そして長女の親友で長男の気持ちを翻弄する美しい女性メレル。
一見平穏に見える彼らのパーティーはそんな愛人の出現により、不穏な空気がまるでさざなみのように拡がってゆく――。

実は本作、撮影が開始された時点ではこの4分間の冒頭部のみしか脚本は書かれていません。
何故ならこれ、その後の展開は視聴者から公募しその中から厳選されたものを基に紡がれた作品だから――。

これまで様々な物議を醸してきたバーホーベン監督が、新たに創出したのはそんな挑戦的な手法で撮られた実験作でありました。
まず一言言っておきたい、「前振りがなげーよ!」。
本編が始まるまで、その企画意図が監督のインタビューによって解説されるのですが、これが30分以上ある。
確かに興味深い内容ではあるのだけど、「とっとと本編に移行しろよ~」と僕はちょっぴりイライラしちゃいました(笑)。

とはいえ、ようやく始まった本編なのですが、これがいかにも彼らしいエロとグロが絶妙の按配で配合されたシニカルなホームコメディの逸品へと仕上がっており、さすがの貫禄でしたね。
特に、男どもをその美貌で惑わすメレル役の女優さんがとてもサキュバス的な魅力に満ち溢れていて、えがったっす。
妖艶な悪女を撮らせたら、やはりこの監督って感じですね!

肝心の撮影手法ですが、俳優陣が撮影が始まった時点で自分の演じるキャラがどんな人物なのか分からないというのは裏を考えながら見るとこれがなかなか面白い!
メレル役の彼女なんか、「え、私ってこんな役やったん?」とびっくりしたでしょうね。
他にも「俺、こいつと愛人関係なんか~」とか「私、悪役なん…」とかいろいろ戸惑いながらも、次第に役に入っていく俳優たちの仕事ぶりは見ていてけっこう楽しい。
なんだか良質のインプロ(即興)劇を観ているようでした。
まあ、確かにこれが監督の壮大なるフェイクだという可能性も捨てきれないけれどね。
でも、それも含めて知的好奇心を刺激する大人の娯楽作品であったと思います。
うん、星3.5!
かたゆき

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