ちろる

寫眞館のちろるのレビュー・感想・評価

寫眞館(2013年製作の映画)
3.9
それは丘の上にある素敵な写真館。
日の丸写真館という名のその写真館は、多くの人々の幸せな瞬間をシャッターに収めてきた。
とあるご夫婦は、この日の丸写真館を訪れて恥じらいながら奥様の写真を撮って以来、節目ごとにこの家族はこの写真館にやってくるようになった。
しかしここの娘は一切笑わない。
写真館の主人はどうにか笑わせようとあの手この手をつくすが、赤ん坊の頃から、成人式を迎えても、幸せな結婚と出産を経ても、どんな時も頑なに笑顔はみせない。
そんな中、世の中はますます戦争一色となり、この女性の一人息子も兵士としてお国のものとなってしまう。
彼女はずっと知っていたのだろうか?
生まれた時からずっと、この悲しき未来を。
世を憂いて、ぶつけようもない怒りをかかえこんで・・・

美しい音楽と共に見せる、小さな写真館の抒情詩。
明治から昭和初期にかけての激動の時間の中で変わりゆく家族の様相を、この無愛想な少女を軸にして見せたお話。
ラストの笑顔は、もうこれからは大丈夫かもしれないという安心感からこぼれたものなのだろうか?
写真館の主人だけが知っている、彼女の人生の浮き沈み。
ご主人の何とも言えぬ包容力に彼女はずっと、癒されていたのかも。

なかむらたかし氏の個性的で魅力的なキャラクター造形と、ノスタルジックで美しい背景美術が、うまくマッチして独特なアニメーションへと仕上がっている本作。
戦争の悲しみを含有しつつも日本人の文化的な生活が垣間見れる素敵な作品だった。
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