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チェインドのEikeのレビュー・感想・評価

チェインド(2012年製作の映画)
3.2
鬼才D・リンチ監督の娘さん、ジェニファーの作品。
パパの作品ほどアーティスティックでもニューロティックでもなくごく普通のエンターティメントとして楽しめる作品になっているのは前作、「サーベイランス」と同様ですね。
「サーベイランス」はど田舎で起きた多重交通事故の影に見え隠れするサイコ・キラーの姿を生存者の証言から浮かび上がらせるミステリーでしたが本作「チェインド」も陰鬱な印象のお話である点は同じ。

シリアル・キラーのタクシー運転手ボブ(V・ドノフリオ)とそのボブに囚われの身となった少年の姿が描かれております。
タイトルのチェインド=Chainedは「鎖でつながれた」と言う意味で、ボブにさらわれたその息子、ティムが文字通り鎖につながれて囚われの身となる境遇を表しております。
しかし最後まで見ると結構意味深なタイトルであることが分かる仕組みとなっております。
ただ、ジェニファー監督と主演のドノフリオ氏は共にタイトルは「チェインド」ではなく「Rabbit」にすべきだったとおっしゃっているそうです。
このラビット=「うさぎ」とはボブに囚われ、彼の身の回りの世話をするように命じられるティム君に与えられた名前です。

サイコキラーを主人公に据えたこのプロットからは陰惨なイメージが強い訳ですが、実際に見てみると意外にも「良く出来た物語」の印象が湧いてまいります。
それはヒネりを効かせた後半の展開が大きく寄与しているのですがそれ以上に大きいのは主演のドノフリオ氏とラビット役のイーモン・ファーレン氏の熱演。
ドノフリオ氏扮するボブは倒錯した欲望をコントロールできず次々に女性を拉致し、町はずれの一軒家に引きずり込んで殺害して行きます。
そんな彼の姿には戦慄と嫌悪感が当然浮かぶのですが、この人物を唯の怪物として描いてはおりません。
彼の苦悩する姿を織り交ぜながら、なぜこのような凶行に走るようになったのかが徐々に明らかとなる展開がじわじわと効果を上げてまいります。
中盤以降はボブとラビットの心理ドラマとしての濃度が一気に高まってまいります。
ラビットを虐待しつつも時として彼に対して同情とも愛情とも取れる感情を見せるのは何故か?
そしてラビットに自分同様の価値観を持たせようと「矯正」に走るボブの行動の動機とは?
一方のティム君は己の生殺与奪をボブに握られた事への反発と怖れ、しかし生きるためにその力に依存せざるを得ないことから生じる複雑な心情。

この両者の錯綜した感情に基づいた日常が次第に緊張を高めて遂に暴発してゆく後半の展開は、意外にも抑制が利いた描写になってます。
その点で強くホラー的な描写を望む客には肩透かしとも映るかも知れませんがこのクライマックスに至るまでにサイコ・ホラーから完全にサイコロジカル・サスペンスへ変容しているのが中々に巧い。
そしてそれがうまく機能しているのでドラマとしても十分見応えが得られるモノになっていると思います。

本作のエンディングは中々に意味深。
好き嫌いが分かれそうですが、これは予算不足もあって、ぼかした感じになってしまったそうです。
が、捻りの効いた心理サスペンス作品として、僕は悪くないと思いました。
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