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たまこラブストーリーのfumingのレビュー・感想・評価

たまこラブストーリー(2014年製作の映画)
3.8
テレビアニメ「たまこまーけっと」の劇場版。しかし、本作はテレビシリーズ本編との直接的な繋がりはほぼ無い。

この映画を一言で評するならば、「日常系アニメの時を進めた先の物語」であり、日常系アニメにおける強烈な実験作である。

「たまこまーけっと」テレビシリーズ本編は、主人公のたまこが家族や友達、舞台となる商店街の人々と穏やかながらもちょっぴり変わった日常を送る日常系コメディ。対して本作はうって変わって恋愛に主題が置かれている。だが、その相手の幼馴染み「もち蔵」はテレビシリーズでは大して重大な役回りを持たない、ほぼサブキャラクターであった。
本作のあらすじは、その半モブキャラのもち蔵が主人公たまこに告白し、その答えを出すまでを描いたという至って単純なもの。しかし、その道程が非常に緻密な上に各々の人物描写が大変上手い。思ってもみなかった急な告白に戸惑い、家族同然に育ったもち蔵を避けてしまうたまこ。想いが空振りして河原で叫ぶもち蔵などなど、些細なきっかけで変わる劇的な日常の変化をテレビシリーズには無かった全開の甘酸っぱさで色付けしている。

そして何よりも、本作最大の特徴というか意義のようなものは、日常系アニメお馴染みの俗に言う「サザエさん時空」を破壊したことであろう。
もし、ドラえもんが未来に帰ったままならどうなってしまうのか? ちびまるこちゃんでおじいちゃんの友蔵が死んだらどうなってしまうのか?
日常アニメとは変化しない情景を描き続ける作品である。しかし本作は日常系アニメであったはずのテレビシリーズ本編、そしてそうたらしめていた「たまこともち蔵の関係性」を進めたことによってその枠組みを見事に脱したといえる。劇場版のみのif展開や別解釈ではなく、作品の正史として本作は劇中の時間を進めており、日常系アニメとして売り出していたテレビシリーズを鑑みるとある意味ありえない展開である。だが、本作は劇中の主人公たまこにおいても、メタ的な意味でも「変わること」の恐れと葛藤、そしてその先の変化に伴う喜びや成長を優しさと情緒たっぷりに見せてくれていると思う。いわば作品そのものが成長した一作ではないだろうか。テレビシリーズは未視聴で本作のみを視聴した人も多いとは思うが、是非ともテレビシリーズを観た上でもう一度観て欲しい作品である。
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