OASIS

たまこラブストーリーのOASISのレビュー・感想・評価

たまこラブストーリー(2014年製作の映画)
3.9
京都アニメーション制作のアニメ「たまこまーけっと」の劇場版。
卒業を控えた主人公北白川たまこと、彼女に想いを寄せる幼馴染のもち蔵との恋模様が描かれる。

TVアニメ版は全話視聴済みだが、そちらは太っちょ鳥のデラちゃんが何かともち蔵とたまこの間に割って入る為、コメディを描きたいのか恋愛を描きたいのか中途半端になっていたという印象。
しかも、デラちゃん関係のシーンの殆どが滑っているという散々たる状況だった。
ところが劇場版では全くデラちゃんが出てこない(最後に少しキザな台詞を吐いたりするが)。
居ても居なくてもストーリーには影響していないし、何故最初からこの方向性にしなかったのか?と思わざるを得ない程だった。
可愛らしいキャラクター達が青春を謳歌し恋愛に悩む、ただそれだけで十分なのだ。

たまこ、みどり、かんな、しおりという4人の女の子同士が醸し出す仲良しを超えた「百合感」が強調されているし、足の僅かなくねらせ方で複雑な乙女心を表現する方法などからは、山田尚子監督の「女の子が見せる可愛い仕草が大好き」というアブナイ性癖が見え隠れする。
アニメキャラらしからぬお尻や太ももの絶妙な肉感は、女体を知り尽くした女性監督だからこそ出せるものなんだろうか。
終盤のバトントワリングシーンでの手の僅かな広げ具合やウィンクの仕方、首の傾げ方などからもただならぬ女の子に対する観察力の鋭さが見えた。

河原での告白によって急にもち蔵を意識してしまうたまこが見せるキラリとした瞳や一瞬にして女の子→女性へと変わる表情はアニメならではのマジックだろう。
ほんの一瞬で、その後また直ぐ戻ってしまうのだけど、自分の中にある女の部分に気付く瞬間にはかなりのこだわりを感じた。
その後の「かたじけねぇ」「もち蔵焼いてこよっか?」にも大いに笑わせてもらった。

もち蔵がたまこへアプローチする姿は散々TV版で見ていたが、そこにはデラちゃんの存在があったからなかなか踏み出せずにいたわけで、鳥がいなくなった今再びそれを描かれるとかなり焦れったい。
しかし、たまこがもち蔵を意識し始めた結果、その想いを受け入れる=スランプ気味だったバトンをキャッチするという少しの成長の流れにもっていくのは流石。
それを後押しするみどりのヒロイン力やかんなの不思議ちゃん力、しおりの乙女力もより磨かれてそれぞれが目標に向かって歩み出す。
なんだ、完璧な終わり方じゃないか。

商店街の人達には挨拶程度しかスポットは当てられないが、たまこの母の鮮明な映像が映されて母と子の物語を補完してくれたり、妹あんこの危ういサービスショットやたまこのお色気シーンなどなど他にも本編に無かった見所は満載である。
ほんと、本編は鳥さえ居なければ良かったのに・・・。

OP曲からして、たまこの父が母に告白して時のモノを使用しているので、当然TV版を観ていないと分からないし、みどりちゃんのもち蔵に対する感情も、これだけ観ると勘違いしてしまうかもしれない。
TV版を全て踏まえた上で観ると、サイレント風なオープニングや二人だけの時間が猛スピードで流れる演出、糸電話などなど、近くて遠い距離を感じさせる映画的手法に胸がときめいてしまう事は間違い無しなので是非TV版を見た後で。

ラストシーンの「○○○○○」からの暗転演出は鳥肌モノで、正直ちょっと泣きかけましたよ。
いやぁ、完全オリジナルストーリーって本当に良いものですねぇ。
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