140字プロレス鶴見辰吾ジラ

たまこラブストーリーの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

たまこラブストーリー(2014年製作の映画)
4.0
【切れ字】

映画というものは2時間前後の旅であると思うと同時に、その2時間の中にクリエーターの想いや野望や嘆きや怒り、そして理想が敷き詰められた物語であもある。たった2時間、されど2時間。本作は90分という時間の中で「たまこマーケット」を“ラブストーリー“として所謂“俳句“のような制限の中で、ありったけにエモく描いている。作家としての山田尚子に感服する彼女のアーリーイヤーの良作であり、脚本吉田玲子とタッグを「劇場版けいおん!」を経て再び物語の再構築化をしている。明らかに「劇場版けいおん!」と対を成す恋の物語として静かに燃える作品となっている。

先日「けいおん!」の映画レビューで、最後は同じ大学という鳥籠に閉じ込められたのでは?と書いたが、「けいおん!」の映画版では、主人公たちがロンドンという非日常に飛び出し、そしてまた元の日常という消費される世界へ戻っていく話である。本作「たまこラブストーリー」は、日常という名の円環構造に“恋“という波紋が広がること、進路が別れ日常の終わりが示唆されると同時に起こる圧倒的な世界の変化をキャラクターたちのデフォルメ化された困惑(「かたじけねえ…」のようなセリフ)からアニメーションや背景が演技する静の雄弁性が随所に投下されている。日常という鳥籠にいた男女がある決断で鳥籠を出ようとすること、そして元には引き返せなくなったときに心を伝えようとする圧倒的エモーションの行く末が爆発するクライマックスのラストミニッツレスキュー的な走る→探す→見つけ出すの下りは本当に胸に来る。劇中のアイテムとしての糸電話、そして隣接する家の窓と窓の描写、キャッチできない紙コップ、バトン、クラッシュする心と心が、川の描写、水面と水中、磁石の説明、配置すればメタフィジカルだがそれが吹っ切れたように走り出すラストと新幹線のホームでの一連の動き、エンドロールに入るブラックアウトのその瞬間は、俳句の切れ字(や・かな・けり)のように、エモさが溢れかえる中、鑑賞者になげつけて幕引きというジェットコースターの最高到達点が幕引きの瞬間として演出されることで、鑑賞後のエモさは人それぞれに帰着し、日常から恋をした非日常へと旅に出ると感じられるのが本当に良い。


劇中の日笠陽子演じるお母さんの演技がとてつもなく母性的で少々子供帰りしたくなったわけで…