netfilms

神田川淫乱戦争のnetfilmsのレビュー・感想・評価

神田川淫乱戦争(1983年製作の映画)
3.8
 神田川沿いのマンションに、あきこ(麻生うさぎ)とまさみ(美野真琴)が隣同士で住んでいる。彼女たちはトランシーバーを携帯しており、近所の変化にも敏感である。毎日SEX三昧のあきこと、学生のまさみ。双眼鏡で外を覗いていたまさみは、川をへだてた向こうのマンションに最近、引っ越してきた母子を発見する。2人がその部屋を覗くと、何と母子相姦しているではないか! 「これは、いかんっ! 」と2人は少年を救い出し、まともな性に目覚めさせるため行動を開始する。何ともバカバカしいストーリーであるが、この時代のロマンポルノは黒沢の荒唐無稽な物語を簡単に許容する。冒頭からポルノにはおよそ程遠い遊戯性の強いどこかコミカルなSEXが空間を支配する。そこにあるのは虚無であり、SEXにかこつけた裸の男女の全身運動に他ならない。次々に体位を変え、彼らはベッドの上を転がり、そして合体したままベッドから転げ落ちる。時には乳首を舐められながら鼻歌を歌ったり、突然歌い出したりする。もはや何らかの感情も諦念もなく、そこにあるのは単なる人間と人間の一つの面白い動き-運動に過ぎない。

 互いが住むマンションの間には神田川が流れ、コンクリートの石壁が互いの侵略を阻むロケーションがまた素晴らしい。最初は橋を迂回し、岸野雄一の住むマンションへの侵入を試みるも、マンションの管理人である周防正行に行く手を遮られ、階段から転げ落ちる。そこで2人は正攻法での侵入を諦め、神田川を渡り、2階の部屋へ少年を助けに行く。思えば麻生うさぎと美野真琴の関係性はまったく提示されることがないし、麻生うさぎと森太津也(現・森達也)の関係も会社の同僚ではないかと台詞から読み取れるのみで、最後まで提示されることはない。彼らはまるで一切の情念を捨て去り、性愛に走っているようで、後半からはその描写がやや異様に映る。母親と岸野雄一がどうして近親相姦するに至ったかの理由も明示されないまま、クライマックスまで5人の尋常ならざるテンションが互いのマンションの部屋を切り取ったフレームの中で繰り返される。また覗き見ることから生まれるサスペンスも今作にはない。

 主人公と友人の赤と黒の衣装、まるでJLG映画のような岸野雄一少年の部屋、突然歌い出す登場人物など、後の黒沢清のフィルモグラフィを考える上で、実に興味深い描写がそこかしこに溢れている。クライマックスの男女の侵入の前に提示された岸野雄一少年と麻生うさぎの正面からのクローズ・アップは確かにモンタージュされる。しかしながらマンションからマンションへの距離を考えれば、そのショット同士は正しくはつながらない。この映画的矛盾を強引に一つにしてしまう黒沢の自由な精神が素晴らしい。
netfilms

netfilms