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未来を花束にしてのumisodachiのレビュー・感想・評価

未来を花束にして(2015年製作の映画)
4.2
1910年代のイギリスで、女性参政権を求め戦った活動家たち〝サフラジェット"。爆破など、過激な行為も辞さなかった彼女たちの苦難の日々を描いた作品。

登場するのは実在の人物が多いようだが、主人公は架空の人物。幼い頃から洗濯工場で働き、セクハラパワハラ当たり前の環境で暮らすモード。サフラジェットに参加している同僚の代わりに議会で証言をしたことから、彼女もまた活動にのめりこんでいくようになる。

警察に捕まり、夫には愛想を尽かされ、息子とは引き離され……。それでも勝利を夢見て戦い続けるモード。他のメンバーたちも、それぞれ逆境の中必死で活動している。

正直、気持ちが良く観られる作品ではない。メンバーたちが置かれている状況はあまりに理不尽で、つらい。そして、彼女たちの活動は手放しで褒められるようなものではない。

しかし、この作品は〝観る価値がある"いや、〝観ねばならない"作品だ。たかだか100年前に、女性たちがこうして苦しんで戦っていたこと。ごく最近まで女性参政権が認められていなかった国も沢山あること。

性別に限らず、等しく人間としてこの世に生を受けたのに、なぜ不当な扱いを受けなければいけないのか。そして恐ろしいのは、当たり前に差別がある環境では、差別する側も、される側も、自覚しにくいということだ。

この映画は、過ぎ去った昔のことだけを描いているわけではない。いま、我々だって差別の当事者になっていることに意識を向けさせる映画だ。我々は抑圧されている存在ではないか?差別を内在化してしまってはいないか?そして、誰かを抑圧する存在になってはいないか?あまりにも無邪気に、差別的な意識を育んでしまってはいないか?

ところで話は変わるが、私が就職した会社は男性が圧倒的に多く、私がいる部署の女性比率は1割にも満たなかった。ある日社内イベントのようなものがあり、女性社員とスタッフは浴衣で出社するようにと指示が出た。(今考えると、それ自体がどうかと思うが……)

私は花火柄の浴衣を着ていったのだが、隣の部署の10歳くらい年上の先輩(男)が
「なんだよそれ、変だよ!変!」と大声で執拗にからかってきた。私はそういう目に遭うのに慣れてしまっていたし、かなりイラついたものの、10歳も上の先輩に歯向かう気にもならず、曖昧に笑みを浮かべてその場をやり過ごそうと必死だった。

その時、その先輩の上長が大声でピシャリとこう叫んだ。

「やめろ!失礼だろ」

私はひどく驚き、そして感動した。その言葉が公平さから出たものだったからだ。

それまで、同じような場面で他の男性が私をかばってくれる場合、「可哀想じゃないか」とか、「俺はいいと思うけどな」とか、あくまでも『自分が』私をどうジャッジするかに基づいたコメントしか聞いたことがなかった。

しかし、「失礼だろ」は全く違う。を1人の人格として対等に見て、フェアに下した判断だった。

「そんなことが?」と思うかもしれないが、私は感激したのだ。それくらい、自分が他の男性社員に対等に扱われていないことに無自覚だった。

これは、たまたま私が被差別側だった経験だが、きっと差別側に立ってしまったこともあるのだと思う。そして差別とは、絶対に否定されるべきものなのだ。

この映画は女性差別に限らず、あらゆる差別に関して、私たちに考えるきっかけを与えてくれる。そして、差別に気づいたならば、戦うべきだという勇気を与えてくれる。すべてのティーンエイジャーに観てほしい。そう思わせる良作だ。

なお、私が観た回はそれなりに混んでいたのだが、観客は100%女性だった。本当に、1人も男性がいなかった。レディースデイだったということもあるのだが、私の経験上、100%女性というのは初めてのこと。正直、少し残念だ。男性にも観てほしい。
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