おいなり

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生のおいなりのレビュー・感想・評価

3.4
旧DCユニバースはなぜ失敗したのか?

ターニングポイントとして、人によってはジャスティスリーグの致命的ゴタゴタを挙げる人も少なくはないと思うが、一応ヒーロー映画としての体裁は整っていたあちらに比べると、「バットマンとスーパーマンがチョロっと戦う」というコンセプト以外の大部分が、未完成のダイジェスト版のまま上映されたと言っても過言ではないこちらの方が、ワーナーのそのヒーローマニアを金ヅルとしか見てない(たぶん旗振り役であるザック・スナイダーも含めて侮るような)舐め腐った態度が見て取れて象徴的だと思う。
MCU初期にもそう言った風潮は少なからずあったが、アベンジャーズの記録的ヒットと、真面目にヒーロー映画に取り組むケヴィン・ファイギの姿勢が、世界の見る目を変えるようなムーヴメントを産んだのだと思う。「ファンに迎合するのではなく、新たなファンを作る」という視野の広さと強烈な野心が成功に繋がった。

残念ながらDCワーナーに、同じようなブレイクスルーは起こらなかった。



DCフィルムユニバース(だか、エクステンデッドユニバースだか、とにかく公式が明確な呼称を付けなかったのもこのSNS時代における小さな敗因の一つだと思う)の決定的な弱点として、とにかく金を出してるワーナーに明確なビジョンがなく、しかも方針をコロコロ変えるせいで映画をムチャクチャにしてしまうことが挙げられる。
このBvSに関してもアルティメット版と見比べればわかるように、場面と場面のつなぎ目が悉く上映版ではカットされており、全てのシーンがバラバラに分断されている。
おかげで、「なぜこのキャラがここにいるのかわからない」「今何をしてるのかわからない」「なぜそういう考えに至ったのかわからない」という、観客に極めて不親切な映画となってしまった。

僕はザック・スナイダー自体もそこまで高くは評価してないけど、さすがに一流のフィルムメーカーである彼がそんな意味不明な編集をするわけもなく、ザックの作る神話的冗長さに満ちた(上に頻繁にスローモーションを使うのでどんどん尺が長くなる)映画を嫌ったワーナーが、わかりやすく短くするために編集権を行使した(あるいは強行的に指示した)以外の理由は考えられない。
ザックのフィルモグラフィーを見ればどんな映画が上がってくるかわからないはずはないのに、雇用主がその長所を全部殺して普通のものを作らせるという、ありがちな大企業シンドロームに陥っており、いかにワーナーが映画を「商品」としてしか見てないかがわかる。

実際アルティメット版を見れば(その3時間という長大さを除けば)文句のつけようのない佳作であり、ザック構文で語られる世界は、前作の「ダークナイト風の思春期スーパーマンを作らされる」という滑稽な縛りからはある程度解き放たれており、オタク向けの内輪映画としては十分な出来となっている。

ただし、ザック版が最初から公開されていても、ワーナーが望むようなMCU級のヒットにはならなかったことは明白であり、上映時間を減らすという決断は最低限必要だったのだろう。
しかもザックは、批評的にも興行的にも失敗した本作の続編として、合計6時間超えの2部作JLを作ろうとしており、ワーナーも頭を抱えただろう。そんなもん作ったら赤字でふつうに会社傾くわと、慌てて大衆向けに方針転換したジョス・ウェドン版JLでは、オタクにも大衆にもそっぽを向かれてしまうという大失態を犯し、結果的に3作目にして早くもDCEUは失敗を決定づけられてしまった。(ついでにスーサイド・スクワッドにもあれこれ口出しして余計なゴミを増やした)

ワーナーDCとザック・スナイダーの結婚は、新婚初夜からボタンの掛け違えが発生していた。300やウォッチメンの危うい魅力に惹かれ、結婚したら急に現実が見えてしまったのだろう。よくあることだ。



火傷ではすまない火遊びの後、個々の監督の作家性にある程度まかせて、ユニバース間のつながりはそれほど強調しない方向に舵をとったDCワーナー。これは一定以上に成功は収めたけれど、もうベンアフ・バットマンもジャレッド・ジョーカーもいるのにそれとは別のジョーカーとバットマンの映画を作らせる(さらにバットマンにもバリー・コーガン演じるジョーカーらしき男が登場したせいで、同時期に3人ものジョーカーが共存してしまった)など、とにかく儲かるなら何でも作るという、カオスとしか言えない状況に陥った。
これ以上に発展はないと踏んだ結果、MCUからジェームズ・ガンをヘッドハントしてきて、ユニバースをリブートすることになった。ジェームズ・ガンには真剣に成功してほしいと心の底から願ってはいるが、きっとまたワーナーは余計なことをしてしまうだろう。何より、そのリブートの犠牲になった数々の作品、監督、役者に対する、後ろ足で砂をかけるような態度に、少なからず観客は反感を抱いている(「観客に混乱を与えてしまうから」という理由で旧作品群はほとんど切られてしまったが、その混乱を生んだのはお前らやろと言いたい)。ゼロどころかマイナスからのスタートで、いったいどうなってしまうのか。とりあえず公開前から傑作と評判高いフラッシュを見てから見極めたい。



それにしても本作はワンダーウーマンがカッコよかったですね。ジャンプ漫画のごとく主人公のピンチに颯爽と現れて、例の勇ましいBGMとともに敵に飛び掛かっていく姿が最高すぎた。劣勢でも「やれやれ……コイツは骨が折れるわね」という表情で笑みを見せるのがもうね……。たまらん。
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