みーちゃん

イヴ・サンローランのみーちゃんのレビュー・感想・評価

イヴ・サンローラン(2014年製作の映画)
4.0
Monsieur Yves Saint Laurent を描いた映画は他にもあるけど、本作が一線を画しているのは、公私共に彼のパートナーだったピエール・ベルジェが全面協力しており、ブランドが公認していること。だから、仕事場やショーの様子が忠実に再現されているのだ(仕事中は白衣のような服を愛用していたのも、縫製前の生地や仮縫いのドレスを鏡越しにチェックする場面も興味深い)。

そして何と言っても注目なのは、サンローラン財団所有のアーカイブから衣装が貸し出されたこと。つまり、撮影に使われた服も、アクセサリーも、靴も、当時の本物なのだ!

ショーのモデルが、初期はいかにも女性らしく可愛らしいヴィクトワールだったのが、ベティのようなスレンダーで中性的なミューズへと移り変わっていく描写も良かった。1966年頃のスモーキングスタイルをはじめとする、マスキュリンルックへの進化とシンクロしてて納得できた(スモーキングはタキシードのこと。彼はそれを女性用にアレンジ。今の私達には信じられないけど、当時は女性がパンツ姿で闊歩するなんて考えられなかったのだ)。

でも、彼の人となりについては知らなかった。だから命を削るようなクリエーションの姿勢に胸が苦しくなった。と同時に、そうでもしないと創れない。普通の人間には発想すら出来ないような価値を創造するために彼は生き、形にし、世に送り出し続けたのだと知った。

それは、言葉で説明しなくても、クライマックスの15分間のコレクションのシーンを観れば分かる(ファッションに興味がある人はここだけでも見て欲しい)。本物のオートクチュールだけが放つ繊細さとパワー、ランウェイのインクルーシブな多様性、彼の純粋でシャイな人柄。洋服を見て泣けるなんて自分でも予想外だけど、涙が流れてきた。

イヴ・サンローランが「20世紀の最も偉大なデザイナー」「モード界の帝王」「女性のスタイルに革命と権利をもたらした」などと称賛されている理由を、頭だけでなく心で理解することができた。そして、今の時代だからこそ、装うことの意味やスタイルについて、改めて考える機会になった。