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ジャージー・ボーイズのhilockのレビュー・感想・評価

ジャージー・ボーイズ(2014年製作の映画)
5.0
ミュージシャンの半生を描いた舞台は多い。大物スターの知られざる半生と、裏話のような芸能界のゴシップという趣向は、下世話な話だが、誰しもが好む内容ではある。しかし、本作は、それだけではない。最近の舞台劇の映画化によくある音楽だけが先行して浮きまくっているような作品とは違うし、ネームバリューを意識したキャストが挿入歌を熱唱するというなんとも残念なものでもない。フランキーヴァリ&フォーシーズンの当時の情景と彼らのヒットソングを惜しみなく使用すること、さらにミュージカルで舞台に立った俳優(映画界では有名ではない)を多数配置していることで音楽が見事に融合した作品になっている。特に本物と本作の主人公ヴァリを演じたジョン・ロイド・ヤングの歌声が遜色ないところにも賞賛を送りたい。 そんな中、唯一、フランキー・ヴァリを後ろ盾するマフィア、ジップ・デカルノ役のクリストファー・ウォーケンが何とも言えない味で好演している。
ヒットソングの生まれるシーンや輝かしい日々など、映画の盛り上がりも素晴らしいが、長丁場であるからいっときの単調な部分も中盤にはある。バンド内のゴタゴタ、夫婦関係のもつれがそれなのだが、普通の作品であれば、これ見よがしにもう一つの盛り上がりとして描くところを、一瞬の静寂でさらっと過ぎ去るのは、イーストウッドの持ち味でもある。他人に見せたくない隠したい部分というのは、端から見れば目立ちやすく、人間の滑稽さでもある。しかし、生きていく中で喜怒哀楽は当たり前で、それが空気とでも言うようにあえてスポットを当てない彼の演出は逆に余韻として残す効果もある。また、大量の借金をマフィアから受けていた、きな臭いメンバー内のいざこざも、ダークな話でありながら、その恐怖をエッセンスとして、爽やかに処理できるのも上記と同様俯瞰的な位置で、すべてを客観的に見ている彼の旨さでもある。彼の作品によくある罪の根本にあるものは、悪と善が紙一重であるという描き方は本作にもある。最近、題材としては古びた(幾分の言い過ぎ感もある)男の友情というテーマも田舎町ニュージャージーの牧歌的な感覚と相まって、青春礼讃を彷彿とさせる。
いい映画であるが、当時の音楽に興味がなく、出演した俳優も無名であれば昨今の興収ランキングには厳しいような気がする。本作もイーストウッド監督作品という大看板があって劇場に足を運んでいる人も多いわけで、このような無名な俳優で作られた映画こそ映画の面白さのみが凝縮した作品でもあり、評価されるべきである。ちなみに、ジャニーさんもお気に入り、ジャニーズのシングルデビュー前でよく披露する『君の瞳に恋している』は、1967年のヒット。私の年代ではディスコ調のクール&ザ・ギャングの同曲は、1982年ヒットですので本作の流れとは違いますのでご注意を!
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