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ゴーン・ガールのchi6cuのレビュー・感想・評価

ゴーン・ガール(2014年製作の映画)
5.0
ああ、傑作!2時間半を感じさせない圧巻の内容。
前半と後半では作品の種類さえも変わってしまうほどの大どんでん返し。返されてもなお想像もつかないラスト。
作品に転がされ続ける面白みがこれでもか!これでもか!!
この作品を面白いと思わない人間なんて、想像できない。

鑑賞後は興奮に満たされて年甲斐もなく「ヤバいヤバい」としか言えなかった。
最初から最後まで食い入るように観るも、失踪した妻エイミーの独白が開始してからはまさにジェットコースターのごとく、物語に首根っこをつかまれ離してもらえないようなハラハラ感。
怖い。とにかく怖い。女という生き物が。

とにもかくにもエイミー役のロザムンド・パンクの演技力というか憑依力というか表現力に舌を巻く。
「ブリジット・ジョーンズの日記」以来の女の変貌芸を見せられた。
という感想さえもネタバレになってしまう事が口惜しい。
これから観る人には、とにかく好き放題想像して、想像して、裏切られてほしい。

登場人物は余すことなく皆愚かである。
自己顕示欲が強く、自分の人生は正しく潔く誇らしいものだと思うために全身全霊で虚言している。
「愛している」の言葉さえもすべては自分のみのために。
他者を見下し、自身の立ち位置を理解するのを恐れながら、「完璧」を求めている。全員が。
メディアが発展し、SNSですべてがつながり暴露される世の中。
世界はスキャンダルを求め、近づき、同情したり批判したりしながら他者をダシとした「自己表現」を繰り返す。
「良い人」の自分を見せつけるために。
その中に愛を利用して「完璧」を装う人々の哀しき人生のつじつま合わせが入り乱れる。
彼らの人生は等しく「こんなはずではなかった」のだ。
その人生の軌道修正のためにまたも他者を利用し傷つけ、自らも利用される。
それが恋なのか、愛なのか、それとも憎しみなのか。
愛した人とはどんな人間だったのか?
そもそも愛とは、自分の愛とは?
そんなことも考える余裕もないのかもしれないけど。

男女の結婚という契約の果てに「幸せ」になる事とはいかに難しいのかを実感させられた作品。
ラストではまさに震えるほどの恐怖を全員が体験する。
浅はかな過ちの行く末は人生の墓場なのか。
もしくはそれさえも「完璧な幸せ」なのか。
もう自分には幸せを追う事さえもできないほどにひどく傷つけられた。
この傷も、体の髄から凍るような恐怖も、想像もつかない衝撃も、すべては巧妙な映画に出会えた醍醐味なのだ。
事件は起きる。
残された物証。
自分の記憶、相手への感情。
そのすべてから想起できないほどに他人の世界は計り知れない。
人間関係は恐怖に満ちている。
だから、絶望するほどに面白いのだ。
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