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天才スピヴェットのrichardのレビュー・感想・評価

天才スピヴェット(2013年製作の映画)
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親の愛情って幾つになっても受け取るの難しい。
「愛情っていう形のないもの伝えるのはいつも困難だね」ってミスチルも言ってた。愛していても言わなきゃ伝わらないが、愛していると言っても本当に愛しているかなんて分からないし。

「科学が終焉を迎えた時こそ想像力が必要だ、科学の地平を広げるのは詩人では?」という教授のセリフがある。T.Sは科学においてとても秀才なんだけど(それが観客に伝わるように描かれているかと言われるとそうでもないのだが)、彼の紡ぐ言葉は詩人のそれのようで、T.Sが科学者でありながらその地平を広げる詩人でもあることを思わせる。

進行方向と逆向きに座っているとき、過去へと旅するようで気分が沈む、だとか。水滴がすばらしいのはもっとも抵抗のない経路をたどること、人間はまったくもってその逆だ。等

スズメとマツのくだりも、最初は冷静に理論的に答えてたけど、他の人に対して「マツを見つけられるといいね」みたいなこと言うのがとてもとてもかわいかったし、T.Sが自分の立場を冷静になって見つめ返すセリフなども、しんみりしてよくて、彼の心が広がっていくのを感じる。
「僕は自由気ままな放浪者じゃない、家出した10歳の男の子だ」

心象表現も美しく、映像も綺麗。
孤独な彼の世界はこんなにも色鮮やかで豊か。
これがジャンピエールジュネの世界!

好きなシーン
・トースター壊れてみんな拍手
・ボーダーの数違いのソックスいいじゃん
・タピオカしゃべった〜!
・愛してなきゃ赤ちゃんはできない!
・ゆりかごに使われる永久機関

ただ、先に話したようにT.Sが科学においてとても秀才ということが観客に伝わるように描かれているかと言われるとそうでもなく、大事なのは家族の在り方だとか、好きなことがあれば孤独じゃない、みたいなことなのかな。

生きていれば、いい人にも悪い人にも、いい人そうでも悪い人にも、悪そうでもいい人にも出会ったり、傷ついたりする。T.Sはなんだかんだ子どもで、まだ理解できない大人の世界があるだろうが、ちゃんと帰る場所があるんだよということを家族は伝えてあげなくちゃいけないよね。それでも、オトンとオカンが迎えにきてくれてよかったし、司会者をブン殴ってくれてスカッとした。暴力はいけないけど、なんというか、ああ、ちゃんと、息子を想っているんだなって。

母親も父親も、姉も。みんな一人の人間で、みんなちゃんと傷つく。
それぞれ想うことがあって、あるのに、話せない空気感。家族なのに、家族だからこそ言えないことがある。レイトンの喪失という、本来は家族同士が支え合わなくちゃいけないことでも、簡単ではない。そんなもんだよね。けどそれを、ちゃんと言葉にせずとも分かり合えるのも家族。
なのだけど、それが、いいとも限らなくて複雑。言葉にするっていうことも時には大事なんだ。し、まあ。世の中の家族がすべて、そう「家族らしく」いられるわけではないのだし。

母親役がヘレナなのがよかった。
魔女じゃん!!!
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