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白鯨との闘いのTTのレビュー・感想・評価

白鯨との闘い(2015年製作の映画)
4.0
面白かった!!。『ラッシュ』に引き続き、これまでのロン・ハワード監督作品とは思えないくらいの面白さ。彼のキャリアの中でも、今が最もノリに乗っている時期ではないだろうか。

巨大な海の怪物と人間たちが血脇肉踊る闘いを繰り広げる海洋アドベンチャー的な要素は希薄ながらも、見渡す限り一面海のド真ん中で漂流するという極限状態のとき、果たして人間はどう行動するのかという、『生きてこそ』を彷彿とさせる壮絶なサバイバル映画だ。

原作は、文豪ハーマン・メルヴィルの『白鯨』ではなく、歴史学者ナサニエル・フィルブリックの『復讐する海-捕鯨船エセックス号の悲劇(集英社)』だ。メルヴィルが『白鯨』を執筆する際に参考にしたとされるエセックス号の航海士オーウェン・チェイスの手記と、雑用係であるキャビンボーイだったトマス・ニカーソンの死後に見つかった彼の日記を比較し、エセックス号で何が起こったのかを検証するような内容だ。また、エセックス号の寄港地だったナンタケットがどのようにして捕鯨の中心地へと発展していったのかという歴史や、平和主義者のクエーカー教徒であるナンタケットの人々がなぜ鯨を狩ることは神の意志という思想を持っていたのかなど、本作の世界観を補完するのにも最適な読み物だった。

話を映画本編に戻すと、前半は派手なスペクタクルが連発するが、巨大鯨の攻撃によって、小型ボートでの漂流を余儀なくされ、船員が徐々に弱っていくという、後半こそが本軸である。

海の支配者と言わんばかりに驕り高ぶっていた船員たちは、数十日に及ぶ漂流生活による飢えと渇きによって「死」に直面する。そして、等々彼らは生き残るために道徳に反する行為に及ぶ。

彼らが劇中で行うある行為は、社会的モラルにおいて、容認できるものではない。しかし、このままだと死んでしまう。絶えず彼らをじりじりと誘惑し苦しめていく。この心理的葛藤こそ、本作最大の見せ場と言っても過言ではない。

本作もうひとりのメインキャストといえば白鯨だろう。鯨はVFXによるものだが、あまり大きすぎると現実味に欠けてしまい、ファンタジーのようになってしまう。それを避けるために、ロン・ハワードは専門家と相談し、リアルな動きになるよう細かいところに配慮を重ね完璧に再現したとのこと。
それによって、白鯨に圧倒的な存在感と迫力を持たせることに成功している。劇中の大暴れぷりはまさに怪獣そのもの。

ラース・フォン・トリアーとダニーボイルが絶大な信頼を寄せている撮影監督アンソニー・ドッド・マントルの自由闊達なカメラワークも特筆ものだ。水面スレスレから撮ったインサートショットや極端なクローズアップなどの数々。既視感があるなと思ったら、メルヴィルが『白鯨』を書き上げたニューベッドフォードから出航した漁船に密着したドキュメンタリー『リヴァイアサン』から影響を受けていた。接写はGoProで撮ってるのだろう。
また、鯨出現シーンが船員たちの視点によるものという、実在感や巨大感、それを見ている者の恐怖感が生々しく伝わってくるような撮り方も良い。怪獣映画っぽいとも言える。

1月は、アカデミー賞ということもあってか、実話モノが立て続けに公開されたが、その中でもかなり面白い部類の映画だった。
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