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インヒアレント・ヴァイスのhilockのレビュー・感想・評価

インヒアレント・ヴァイス(2014年製作の映画)
4.5
本作の触れてはいけないオフリミット的感覚というのは、今までの自由の国アメリカの中では描ききれていなかった。もちろん、 社会派監督の抵抗と言うべき作品はあれど、生々しいまでの描写はなかったのである。それは描けなかったのではなく、国民がその虚像に気づいていなかったともいえる。ベトナム戦争、ウォーターゲイト事件による国家不信からの大国の崩壊を筆頭(この辺がタイトルの内在的欠陥と繋がる)に、それと合わせた麻薬の蔓延、ヒッピーなど新文化の登場はアメリカの姿を大きく変えたともみえる。
 本作も謎の組織に追われる元恋人を救うために、救世主として動き出すドックだが、冒頭の10分の映像からハッピーエンドでは終わらない、一種の退廃感を観客に捉えさせる。また、他のPTA作品にも言えることだが、時代背景は観客も掴みやすく、本映画のコンセプトとも合うのだが、その掴めそうで掴めない砂握にも似た当時の感覚が、素直に見た観客を戸惑わせた一因でもある。この不確実で映画化不可能な原作の良さを追求するために、PTAは、作品中の会話文をそのまま、脚本に入れ込んだ。それがピンチョンの作風を汚すことなく(それ以上に愛まで滲み出る)映像になっていることに感動する。途中、途中の意味不明な展開もドックのLSDなどの幻覚、ヤクによる症状と見ることで整合性がとれる(PTAの作風にはそのような要素もある)のだが、それのみで片付けるのは少々、先走りのような気もする。あと数回は鑑賞したい。また、ボイスオーバーによる演出は本作が初。この辺りも語り部を入れ込まず、役者の演技から感じ取らせることに執着した監督の心意気を感じるが、美しいジョアンナ・ニューサムの声は演出を阻害しておらず、映像にうまく融合している。
 もがいても謀り知るものは限られ、解決できるのは一部分という感覚は今の時代だからこそよりわかるというものもある。
ホアキンは、ますます快調で兄が生きていたらこんな感じだったんだろとも感じるし、オーウェン・ウィルソンの演技もなかなかである。ちなみに、 キャサリン・ウォーターストンは、サム・ウォーターストンの娘である。また、PTAの奥さんがドックの秘書(病院内にあるから看護婦の受け付け?)として出演している。
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