けんたろう

楽園の瑕 終極版のけんたろうのレビュー・感想・評価

楽園の瑕 終極版(2008年製作の映画)
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矢つ張り、梁朝偉の死体が弄くり返されるおはなし。


裏切られし過去を以てなほ忘れられぬ人。最期に一目逢ひたかつたといふ願ひ。内に秘めたる恋ひ心と、無二の友への粋なる計らひ。愛が為めに負うた深き瑕。卵一個の為めに命を賭する美しさ。先達の失敗から学び、妻と共に歩まんとする決意。
過ぎ去りし日々を恋ひ、二度と逢へぬひとを恋ひ、決して叶はぬ想ひを抱へながら、今を生く。容易には口を開けぬ者たちが其々に抱く孤独の交錯。生まれたコミユニケエシヨンといふ奇跡。「桃の花」たゞ一個の語に結実する、凡ゆる思ひ。美しき表現である。

成るほどアクシヨンは酷く見にくい。御負けにストオリイは可成り解りづらい。
然し、王家衛に依る傑出した心情描写が為めに、詰まらないなんてことは微塵も無い。
又た、解りづらさの最大の要因である、時系列をぐにやりと曲げて個々の物語りを絡み合はする演出は、寧ろ作品をミステリツクにしてをり面白い。更に其れに因りて、遂に明かさるゝ “酔生夢死“ の真実と彼れらの行く末とには、一入心を打たる。
抑〻、見にくいアクシヨンシインも難解なるストオリイも、王家衛らしさと云へば王家衛らしさである。此方は其れを観に来てゐるのだから、当然不満は無い。何んなら満足である。

今回はBlu-ray上映であつたので、如何せん映像の質はよろしくない。映像美を堪能といふわけにもゆかなかつた。
然し劇場で観られるといふのは、何よりもありがたきこと。此れ亦た、感謝を申し上げたき次第。