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フランシス・ハのchi6cuのレビュー・感想・評価

フランシス・ハ(2012年製作の映画)
3.0
この主人公に共感してはいけないんだろうな、いけないんだろうな、と思いながらもどこかでやっぱり共感して、
そんな自分を「だから、だめなんだよ」と自虐的に、でもちょっとかわいく思ってみたり、
少し自分を甘やかしたくなるジャンクなスナック菓子みたいな作品。

主人公のフランシスはとにもかくにも幼稚で不注意。
未来への展望が全くなく、後先考えずに行動してしまう。
モダンダンサーとして自立する勇気もお金も才能もないのに、他の事に打ち込むこともできず、親友に依存している。
でも、そんな生活が最高に幸せだと思ってしまっている残念な女性。

確かに、気の合う親友との生活は最高に幸せで、彼氏からの同棲の誘いもあっさり断り、親友との共同生活を選んだのに親友は恋人と家を出てしまう。
「え、私は彼と別れてあなたを選んだのに?」は、はっきり言ってはた迷惑な理由で、フランシスはそのまま宿無しに。
その後、ラ・ボエーム気取りのシェアハウスやら大して仲良くない同僚の家やら、まさかのフランスのアパルトマンやらに住んでは失敗、住んでは失敗。
自分の居場所が見いだせないフランシスはどんどん生きにくくなっていく。
彼氏と幸せな結婚をした親友を恨めしく思いながら、報われない自分。
悪いことは重なる状態のフランシスが、どう生き抜いていくかがこの作品の醍醐味なのだけど、そこにドラマティックなエピソードは挿入されないところが、この作品の味わい深いところなのだと思う。
フランシスを不幸にしたのはフランシスなのである。

幼稚で向う見ずなフランシスは、自分の価値を俯瞰で見ることが一切できない。
今、自分はどういう状態なのか。
自分はどんな才能があり、どんな職が向いているのか。
自分に合う環境はどんなところなのか。
すべての自己判断は間違っていて、自分に合わない環境をどんどん選択してしまう。
結局のところ、自分という存在は自分だけでは作り上げられない。
他者から見ての「自分」こそが本当の「自分」であるということは実はよくあることなのかもしれない。
「あたしって〇〇じゃない?」と言ってる女ほど、〇〇じゃなかったりする。おひとりさまの人生は、自分をどうするかをすぐ間違えてしまう。

お先真っ暗のフランシスは、自分だけが世界中で居場所がないと思っていた時、実は世界中の女が同じように感じているということを知る。
女は醜く意地っ張りで愛する人にこそ弱みを見せないから気づけば知らない場所で膝を抱えて泣いていたりするのだけど、よく見たら隣にも同じような女が居たりする。
その、隣の彼女の存在に気づき、抱えていた腕をほどいて、他者の自分への評価を素直に受け入れれば、案外簡単に世界は開けるのかもしれない。
新しい仕事、新しい友達、新しい服、新しい部屋。
自分に合った環境。
そしてずっと大好きな親友。
自分を変えるのは自分自身、ではなく、案外世界が自分を変えてくれる。の、かも。
でも、ま、新しい生活でも、彼女らしく向う見ずなんだけどね(笑)
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