次男

メトロマニラ 世界で最も危険な街の次男のレビュー・感想・評価

4.4
映画でもドキュメンタリーでも報道でもなんでも、日本より貧困で危険な地域の話はある意味耳タコで、とは言っても無感動インポくんで接してるわけでもなく、やるせない思いの先で「けどどうすりゃいいっつーんすか!」っていつも逆ギレめいたところに不時着してる。

今回だってそれはそうだし、観終わっても俺の生活を1mmでも変えるわけでもないのだけど、この映画が傑作過ぎたせいで、半泣きの心で「けどどうすりゃいいっつーんすか!」っつって、それが一晩明けても続いてる。


◆◆


フィリピンの首都、マニラ。の、さらにど真ん中、メトロマニラ。

去年、フィリピンに行ってきた。一人旅だった。マニラが危ないってのは聞いてたけど、聞くと行くとでは大違い、いままで東南アジアは何ヶ国かお邪魔したけど、マニラは、段違いの怖さだった。ギラギラ、なんて言葉じゃぬるい、大きなバックパックを背負ってウロウロしてる自分が鴨ネギにしか思えなかった。

幸い、危険なことは何もなかったけど、駅のすぐ横に広がるスラム街の景観とか、「夜に歩いてはダメな通り」を夜に歩いてみた経験とか、ちょっとまだ脳にこびりついてる。


◆◆


主人公は貧しい農民。フィリピンの山岳地帯で農業を営んでいたけど、生活が追いつかなくなり、仕事を求めて家族とともに首都・マニラへ。
マニラに着いたものの、仕事も家も見つからず。彼がなんとか勝ち取ったのは、現金輸送車の警備員。それは、「マニラで最も危険な仕事」。


◆◆


お国事情を抜いても、本当に素晴らしい出来。
出来が良すぎて、こんなに苦しいのに観れてしまうし、いやそもそもこんなに苦しいのは出来が良すぎるせいなんだけど。
とにかく、脚本が素晴らしいの。

物語として見事な結末を迎えてくれて、本当によかった。観終わって、やっぱり「けどどうすりゃいいっつーんですか!」なんだけど、この見事な結末のおかげで、一人の男が人間としてすごく眩しかったことを噛み締めることができた。「国とか土地とか金の有無は人間を形成するけど、それだけが人間を形成するんじゃないんだ」って、そんな正論に泣きそうになる。


いやーーーーーやっぱりさあ、正しい人でありたいよ。悪い奴もかっこいいけど、愚直に正論を言えるひとでありたいよー。あんだけ危険で切実な街で、あんなに人間であれるなんて。平和な日本で呑気な環境で暮らしてる僕はどうなんすか。彼の姿に堪えてしょげかけてる僕は、どうなんすか。
正しい人でありたいよ。

なんて言っちゃうのは、まだ青い証拠なんすか。でも、じゃあ俺、青くていいっす。
次男

次男