Manabu

夢は牛のお医者さんのManabuのレビュー・感想・評価

夢は牛のお医者さん(2014年製作の映画)
4.5
『夢は牛のお医者さん』

1987年―昭和62年、新潟県の山間にあった、小さな小学校が舞台となり、ある少女とその少女が通う小学校に”入学”する事になった「三頭の牛」を記録することから始まる、ドキュメンタリー映画です。

小学校3年生だった健気な女の子を26年間追い続け、映像として記録した新潟放送さんに、上映後、大きな拍手を送りましたが、やはり、夢に対して全くぶれずに進み続ける高橋知美さんの「困っている牛さんをたすけてあげたい」という、純粋ながらも、その強い思いから始まり、数多くの困難を乗り抜け、本当に獣医となった、夢を自ら結実した、その強い芯のある信念に対して、非常に心を揺さぶられました。

休日という事もあり、劇場のほとんどが親子連れ、ご家族で鑑賞されていた方々ばかりでした。自分の隣のとなりに座っていらした、おそらくは地元の、おばあさまでしょうか、劇中、むせび泣き、その声を何度も何度も、こらえようとして、スクリーンに向かい、手を合わせて拝んでいらっしゃったのです。自分は、ハッとしました。その時の出来事を、何と表現したらよいのでしょうか、わかりませんが、それは、鈍器で殴られた感覚に近かった。とも今は思われます。
非常におこがましいと思いますが、映画が何の為に存在するのか、ほんの僅かですが、その時、少しだけわかったような気がしたのです。と、言いますか、自分も含め、劇場にいた殆んどの皆さんが、その時、泣いておった、と記憶しております。
正直、物凄いドキュメンタリー映画だと思います。

もし、この先、縁あって自分が誰かと結婚できたとして、幸運にも自分の子供に出会う事ができたら、願わくば、この映画をこの映画館で一緒に観たい。と思いました。そして、いろんな映画館に連れていってあげたい。と思いました。

余談ですが、自分の親父は、家族を顧みない奔放で、更には超が付くほどの頑固一徹親父でした。その親父が何を思ったか小学生だった自分を映画に連れて行ってくれた事が、過去に一度だけありました。それは「パーフェクトワールド」という忘れもしない感動的な映画でしたが、何よりも忘れられないのは、それを観ていた、あの親父が、ラストシーンで号泣していたことです。生涯忘れません。

親父が無類の映画好きだった事を知ったのは、この日のずーっと後の事でした。

今、自分は、あの頃の親父と同じように、「映画日誌」と題された帳面を綴っております。古今東西、本当に本当に、いろんな映画が、数え切れない程にあります。これからも莫大に増え続けるのは確かです。その中に、こういう素敵な映画もあるのだ。という確かな幸せを見つけた事。それが、現に、今、ここに存在するのだ、という事。それを再び確認する事ができて、非常によかったです。

そんな映画です。

〈2014.03.30.ポレポレ東中野〉



追記:劇場に、この映画のパンフにもなった成瀬政博さんの原画が飾ってあり、感銘を受けました。
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