ねおねお

トークバック 沈黙を破る女たちのねおねおのレビュー・感想・評価

4.5
HIV陽性者に対する差別は根深い。 それは、HIVが、セックスや薬物の回し打ちの際に感染しやすいからである。
しかし、HIV陽性者だからといって、不特定多数の人とセックスをしたわけでも薬物使用をしたわけでもない。
たった1度のレイプから、あるいは、たった1人の恋人とのセックスでも感染するのだ。


恋人に対し、HIV陽性であったことを伝え、あなたも検査をしたほうが良い、と言った途端に音信不通になった。
HIV陽性であることを知って、妊娠し、子を産むことを諦めた。
そして、何度も何度も自分を責めて、出口のない苦しみの中に閉じ込められるのだ。

HIV陽性であることを知ったとき、出演者の女性たちは皆一様に、ショックを受けている。
とにかく泣いた、ヤクにハマるようになった、恋人に対する怒り、レイプをされたことへのトラウマ、人種差別や元受刑者であることとの二重の差別ーとにかくその闇は根深く、誰とも共有できない状態が続いていた。

HIV患者は、HIVそれ自体で亡くなるのではなく、HIVであることを家族や友人、恋人に打ち明けられず、沈黙を強いられることから鬱状態になって自死してしまうケースが多いという。中には、家族から、殺されてしまった人もいる。
ある地域では、「悪魔の病気」とされているのだ。


そんな状態の患者にどのような回復の道があるか。
それは、「語る」ことではないかと考えた医師がいた。

社会にある分断は「違い」それ自体により生じるのではなく、「沈黙」することにより生まれる。
だからこそ、その沈黙を破り、自らの悩みや葛藤、受けてきた差別や育った環境に怒りを表すことで、自らの過去を自分で許せるようになり、他者と生きていくことができるようになる。
「トークバック」とは、「応答し合うこと」。

他者からの抑圧を受け、辛い過去に蓋をしてきた受刑者が心を開き、自分の過去と向き合う方法の一つとしてとられてきた演劇という手法を、HIV陽性者であることのカミングアウトにも応用できるのではないかー。

そんな仮説から、この挑戦は始まった。
彼女たちの心からの叫び、全身での意思表明は、生きているということへの苦しみと喜びに尽きる。
過去は消せないし、今の自分がいるのは過去の自分がいたお陰だと、自分を許し、他者に心を開くことで、前を向いて生きていく出演者たちの全身全霊の演技は、「演技」という枠を超えて、彼女たちの生命そのものである。
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