DieGeschwindi

リスボンに誘われてのDieGeschwindiのレビュー・感想・評価

リスボンに誘われて(2012年製作の映画)
3.8
“ ここではない何処か ”を求める、大人のファンタジー

 スイスの高校教師ライムントは嵐の朝、吊り橋から飛び降りようとする女を助ける。彼女が残した赤いコートのポケットには1冊の本とリスボン行きの切符が入っていた。衝動的に列車に飛び乗ったライムントは、やがて本の著者アマデウの数奇な運命を知る。重苦しく暗いベルンと、陽光が燦々と降り注ぐリスボンとの明るさの対比が、この偶然の旅を引き立てていく。

 観客はライムントと共に、アマデウと仲間らの人生をたどる。政治活動や情熱的な恋に身を捧げた彼らの生き様が、ライムント自身にも新たな「旅」を促す。退屈な日常を送ってきた中年男のささやかな冒険と、ポルトガルが独裁政権だった時代の若者たちの情熱が交錯する。サウダーデ(郷愁)が漂う黄昏のリスボンを舞台にした極上の謎解きが広がっていく。

 映画を観ている間、本の一言一句に人生の機微を感じ、長く味わっていたい衝動に駆られ続けた。人は誰もが青春と旅による覚醒が存在することを教えてくれる。人との邂逅が人生に計り知れない光輝を与えてくれる。アマデウが意味深な本を書いた理由が深い余韻としていつまでも胸の奥底に残った。

 書物が導いた自分探しの旅。人生の踊り場で、ふと大人が感じ入る作品だ。