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カラスの飼育のhorahukiのレビュー・感想・評価

カラスの飼育(1975年製作の映画)
4.3
無邪気さの中の狂気!

カンヌグランプリの傑作!大好きなママを病気で亡くした少女アナが「父親のせいだ!」と思って不倫クソ野郎な父親に「毒」を盛り殺害…。そして新たに保護者としてやって来た叔母さんの支配的な態度に静かな反抗心を燃やしていく。幼くして「死」を実感したアナの高純度な狂気を描いた素晴らしい作品!

血生臭いことは起こらず、また「結果」が伴わないってだけで、これはもうホラーでしょ。何が怖いって、父親殺害後のアナちゃんのリアクション。一切表情を変えずに父親の髪(ほとんど無かったけど😅)を撫で、淡々と「凶器」の後片付けをする。ママの「何も無い(恐らく死後の世界のことかな?)、怖い、助けて」発言を含めて、死の惨さをまざまざと実感として体験した後に下した殺害という選択に彼女の狂気と憎悪の重みが表れている…怖い!😱

そして偶然だけど、昨日の『パーフェクトブルー』と同様に虚と実の変換を、少女の空想や実際の記憶をゴチャまぜにし、それらをシームレスに繋ぎ合わせ内面と現実、時間軸までも混濁させていく映像表現が多用されているのが見ていて楽しい。その全てが現在へと影響を与え今を形作る要素の集合体であるが故のシームレスさであるわけだけど、そのシュールレアリスム的であり、幽霊的でもある混濁を「現実の中で知覚する」ことそれ自体に心的反応のリアリティを体現させているのが堪らなく好き。

しかも幻想?現実?とこれでもかと多重的に撹乱させ続けるにも関わらず、後発的な情報によって観客の思考を的確に誘導し疑念の残らない着地を繰り返すという、丁寧な引率付きで知らない場所を旅行させてもらってるようなうまさがめちゃくちゃ心地良い!!

Blu-rayリーフレットによるとフランコ政権へのメタファーとして機能しているようで、その辺りもホラーとして手堅いよね。近代化を象徴するような道路の喧騒と過去に囚われたお化け屋敷としての自宅。垣間見える外の世界を意識させる配置と夏休み明けのラストの象徴性も素晴らしい!!

そんで何より主役のアナトレントちゃんの演技力!この子の演技に支えられている部分がかなり大きくて、中盤あたりにある母親の苦しむ姿をじっと見つめるくだりは辛すぎて泣きそうになった…。これはほんと傑作!!
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