すず

ジゴロ・イン・ニューヨークのすずのレビュー・感想・評価

3.5
ブルックリンで三代続いた書店を廃業したマレー(ウディ•アレン)と、その友人で花屋バイトのフィオラヴァンテ(ジョン•タトゥーロ)がひょんなきっかけからジゴロビジネスをはじめるという大人なラブコメ。

男娼タトゥーロとポン引きウディのセクシーユニット〝ヴァージル&ボンゴ〟は、マダムたちの間で密かに口コミ評判が広がり、ビジネスとして軌道に乗りはじめたかに思えたが…。

厳格なユダヤ教の指導者(ラビ)の未亡人で、6人の子供を育てるアヴィガルを演じたヴァネッサ•パラディが良かった。静かで淑やかな佇まい。孤独のうちに塞ぎ込んでいた彼女が小さな恋心を抱いて、そっと柔らかに微笑むような表情に変わっていくのが素敵だった。ショーウィンドウの綺麗なドレスを眺める表情とか、孤独な日々の中に芽生えた恋心、そんな彼女の心情が伝わってきて、観ている側も微笑ましくて、同調するようにささやかな幸せを共有していた。(劇中挿入歌を歌うシンガーのヴァネッサの声も相変わらず耳心地よい)

そして、ラビの未亡人という巧妙な設定がアヴィガルという人物を自然と奥深いものにしている。彼女が背負う人生を推し量ると、物語の流れも収まり方も自然と納得させられてしまう。宗教の厳しい戒律に倣って生きている人間たちについても改めて考えさせられる。人々にはほんとにいろいろな人生がある。

登場人物がみんな地に足のついた大人たちで、ドライな作風というか、大人の社交的な割り切った色恋ドラマで辛気臭くないし、湿度も、後腐れもない。でもほんのちょっと感傷的で。因みにそこまで露骨にエッチな感じでもなくて、軽やかなジャズに乗せた スマートでお洒落な大人のコメディ。それはまさにウディ•アレン映画ぽいんだけど、ウディ•アレンは純粋に俳優としてのみのキャスティングというのを後で知ってびっくり。初めからずっとウディ•アレンの作品を観ていると思い込んでいたら、まさか〝監督ジョン•タトゥーロ〟だった笑。ジョン•タトゥーロもダンディでカッコよかった。まるで自分の映画のように生き生きと演じているウディ•アレンも、後々考えてみたら、いつもの小難しい屁理屈も多少は抑え気味で、可愛いムードメーカー的じいさんって感じでそれがまた良かった。笑
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