Eike

わたしは生きていけるのEikeのレビュー・感想・評価

わたしは生きていける(2013年製作の映画)
3.0
変な邦題ですが原題は「これが私の今の生き方」と中々意味深。

昨今流行りのYAジャンルのベストセラーの映画化作ですが本作は英国産。
地味な作品ではありますが、ちゃんと人物造形に焦点が置かれていてドラマとしては見応えのある作品となっております。

ニューヨークからイギリスの片田舎にやって来たティーンエイジャーのデイジー(Saoirse Ronan)。
各地でテロが相次ぎ急速に不安定さを増す世界情勢に不安を覚えた父親の意向で彼女はこの地に住む伯母、ペンの家で夏の間を過ごすことになります。
初めて会う伯母といとこたち、そして田舎の環境にデイジーは戸惑いを隠せません。
内にこもりがちで常にフラストレーションを抱えて怒りを外に向けがちなデイジーですが遠縁にあたる不思議な雰囲気を持つ若者、エディーに次第に惹かれて行きます。
そしてパリが核攻撃を受け、状況分析を専門としている伯母は緊急会合でスイスへ出かける事に。
子どもたちだけで過ごす日々の中で固く閉ざされたデイジーの心も少しづつ開くことが出来るようになってゆくのですが穏やかな日々はロンドンが核攻撃テロを受けたことで唐突に終わりを迎えます。
英国全土に非常事態が宣言され、子供たちも当局によって引き離され徴用されることに。
急速に治安が悪化して行く中でデイジーは幼い従妹パイパーと共にエディーとの再会を夢見て逃避行を決行するのだが...。

印象としては完全に主演のSaoirse Ronanの独演会。
ですがちゃんとその期待に応え、重責を全うしているから大したものです。
原作のデイジーは15歳という設定らしいですが本作でのローナン嬢は18歳ということで微妙にアダルトな雰囲気もありますが、後半のシリアスな描写を考えるとこの変更は説得力を生んでいる気がします。
ちょっと意外だったのは、本編の半分くらいは子供たちだけで過ごすこの田舎暮らしの描写に費やされている点。
ちょっと冗長過ぎるきらいもあるのですが、のどかな田舎暮らしの中で頑なだったデイジーの心がほどけて行く過程を丁寧に描いているからこそ後半の彼女の行動がうそ臭くならずに済んでいる気もします。

その一方、後半の展開は少々急展開過ぎる気も。
子どもたちを収監する「大人側」の描写には説明が殆ど無く、子供たちの混乱と焦燥を描く意味では理解できますが、観客側にとってはちょっとリアリティ不足にも思えます。
特にデイジーとパイパーが徴用されて労役させられるキャンプでも状況の説明がないのは物足りませんし、軍(?)を襲撃してくる連中がテロリストなのか、内部分裂した反市民なのかの説明がないのはちと辛い。
不穏な空気感が醸し出されていて、案外こんなものなのかもしれないなとも感じさせられましたが。

後半は懸命に「家」を目指すデイジーとパイパーの強行軍を延々と見せる訳ですが、意外にも結構シビアな雰囲気。
まだ幼いパイパーに対するデイジーの態度が必ずしも保護者然としてない辺りは見ていてハラハラさせられました。
この辺りは「ラスト・キング・オブ・スコットランド」の監督のケビン・マクドナルドらしさが出ている気がしました。
もちろん「子供たち」の物語なのであのような血まみれの殺伐とした作品にはなってませんが、かと言って決して甘ったるい雰囲気できれいにまとめていないあたりは偉いですね。
ちゃんと「死」を含めてショッキングな描写も盛り込んで地獄絵を描いております(さすがにドギツサは控え目ですが)。

ラストはさすがに甘い気も致しますが(ロンドンで核兵器が使用されたのにこんな明るいエンディングでいいのか?)過酷な環境下で力を得て行くヒロインの変化を描いた作品として見る分にはまぁ許せてしまいます。
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