大道幸之丞

ソロモンの偽証 後篇・裁判の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

『ソロモンの偽証/後半/裁判』考察。

本作品は“ミステリーの女王”と称される宮部作品としては「ミステリーの構造」の質自体は高いとはいえない。

残念ながら、原作者のネームバリューに期待し本作を意気込んで「どんな大どんでん返しがあるのか」と期待して鑑賞する者が大満足する結末ではない。
宮部氏は結局「青春裁判物語」とも言える『校内裁判劇』自体を誰より先駆けて描きたかったのだと思う。14才のピュアな子どもたちだからこその内容を描きたかったのだと思う。しかしながら残念ながらそこに尽きてしまっており、人間関係が織りなす深みもない。

結局柏木卓也は自殺の事実のまま変わらないし、神原和彦は登場時から感じられる「怪しさ」のまま結論もその予想範疇に過ぎない。

『告発文』『ゲーム』『14才が起こした殺人事件』といったキーワードからして1997年の『酒鬼薔薇聖斗事件』が着想元であろう事は、2002年から連載開始とタイミングも合う事からおそらくその通りなのだと思う。

映画のキャスティングでは日本の映画史上最大規模のオーディションがおこなわれ、中学生役の殆どが新人であった事は話題になった。

しかしこれは他の監督も語っている事だが、“高校生以下で「子供らしい子供」が俳優界にはほとんどいない問題”がある。だから中学生を大勢使う作品の場合常に頭が痛い——この事実から「新人オーディション」は結局、結果論で苦肉の策であったことが予想される。

また、役柄と同名でデビューした藤野京子をはじめ、本作でデビューした俳優は公開から7年経った現在、誰ひとりとして「成功」と呼べるキャリアを歩めてはいない。これは「中学生らしい中学生」と「俳優として確率された個性」は両立しない結論を示しているように思う。

エンドロールに流れる曲も話題になった。アイルランドのアーティストU2の“With or Without You ”だが、リフレインで繰り返される歌詞が「作品に合う」と思いU2へ直談判し認められたとのこと。

ちなみに曲の世界観自体は作曲者ボノの仕事と私生活の板挟みに苦しむ姿であって、深読みしたくとも作品世界との関連ははまったくない。

“あなたの本心が明かされる
あなたの本心が明かされる
あなたの、あなたの
本心が露わになる”

「I can’t live with or without you」(=あなたがいてもいなくても、私は生きられない)

宮部みゆき原作であり国内最大規模のオーディション、海外有名ミュージシャンの楽曲のエンディングと制作中の話題が無闇に多い作品は投入資金が肥大し投入資金の回収が厳しい状況に陥っているケースが多い。しかも制作側ばかりが盛り上がって高揚して冷静さを失っている事も多いと聞く。本作もそんな様子を疑う。

結論として、本作は作家宮部みゆき氏がデテールにこだわる余りに、アウトラインがおろそかになった——と語られても仕方のない作品だと思う。その意味から「ミステリーの構造」を期待せずにエンタメとして楽しむ事が最良なのだと思う。