ろく

デコトラギャル・麻里のろくのレビュー・感想・評価

デコトラギャル・麻里(2012年製作の映画)
3.7
城定のデコトラシリーズはこれでほぼ視聴済み。なんだかんだで嫌いじゃないんだ。

今作でもそうなんだけど、「映画」しているのが嬉しいじゃないか。昨今の「バカでもわかる映画」、すなわちべらべらと自分の気持ちを喋り状況も喋り独白を多用し、言うなれば「映画の皮をかぶったもの」が蔓延っている中でしっかりと映画しているのがいいんだよ。お前は城定作品だからそう思っているだけだって突っ込まれそうだけどどうにも見ていてそう思うんだ。

特に引きのシーンが多いのが嬉しい。黒沢清なんかが得意な引きのショットは城定作品でも定番だ。どうも僕はこの引きのシーンに弱い。アップ、アップの繰り返しがある映画には辟易するんだけど、引きのシーンが多いとそこから「何かを読み取ろう」とさせてくれる。それはこんなポンコツ低予算映画でもだ。それだけでも僕はこの映画はありなんだ。

吉岡睦夫が泥にまみれたあと香西にホースの水をかけられるシーンなんかまさにそれ。吉岡のダメなところ(それはどの人間も持っているダメなところだ)を香西は洗い流す。しかも乱暴だけど優しく。決してドラマチックにはしないけど優しい。それこそが城定映画の「人間の肯定」なんだと勝手に思ってしまう。

最後も当然いい。磯田を捨てて香西はトラックを走らす。そのトラックを懸命に追いかける磯田。そう、城定映画は走る。走る。僕らも走らされる。磯田は何を言っているかわからないけど絶叫している。香西はトラックを止める。でも磯田には近寄らない。そして多く語らない。

ダメだよ、こんな映画なのにぐっとくるじゃないか。演技なんかポンコツ中のポンコツなのに。でもそのポンコツ感がかえって好きだ(濱口竜介が撮った映画では演技ポンコツでもみんな賞賛するのにAV女優主演の映画では演技ポンコツなのをみんな蔑むのはある種の権力性なのではとまで思っている。穿っているか)。

これはちゃんと「映画」である。
ろく

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