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トムとジェリーのくるみ割り人形のdm10foreverのレビュー・感想・評価

3.7
【センス】

今の子供たちはどうかわからないけど、僕と同じくらいの世代の方なら「暖炉の前にふっかふかのクッションを置いて(んふ~~~~ん)っていいながらトムの様にのんびり眠りたい」っていう気持ちがわかると思う(笑)
パフパフしながら形を整えたクッションに(ふぁっさ~~)って感じで顔をうずめて。

以前何かのレビューでも書いたけど、僕らが普段TVで目にしている「トムとジェリー」は1940年頃からアメリカで放送されているご長寿アニメ。
その頃の日本は・・・って考えると切ない気持ちにすらなるよね。

「お国の為」といって日本国民総動員で様々な制約の中で慎ましく生きていた頃、アメリカの、それも中流家庭ですらリビングには暖炉があって、クリスマスには天井まで届きそうなくらいのクリスマスツリーが飾られていて、その横には数え切れないくらいのプレゼントが山積みにされている。冷蔵庫を開ければでっかい七面鳥のローストやらカラフルなゼリーやらケーキなんかがびっしり詰まっている。家中は毎日お手伝いさんが掃除してくれていていつもきれいで・・・・。

日本はこんな生活クオリティの国と戦争してたんですよ。
銃弾を作るための鉄がないからって弁当箱まで供出させられるような国が、こんな豊かな国と戦争してたんです。
勝てるわけがない・・・。

まぁそれはさておき。

トムとジェリーの世界観はとにかくセンスに溢れている。
いかにも子供向けのドタバタアニメながらも、劇中に流れるBGMはジャズやカントリーなど、普通に「音楽」としても楽しめるくらいに高いクオリティのものを使い続けていたし、アニメの技術にしても、当時の技術を考えれば、あのような滑らかな動きは相当高いレベルであることが伺える。
それでいて、あそこまで徹底的に単純なドタバタアニメとして突き詰める辺りに、ものすごいセンスを感じるんですよね。

誤解がないように言いますと、この作品自体は2007年の作品です(因みに映像クオリティの比較で言うと「トイストーリー」が1995年、「トイストーリー2」が1999年に公開されているという時代背景。既にある程度の技術は当たり前になりつつあった頃です)。
つまり、今更「時代的ギャップ」も「生活レベルのギャップ」も殆どない「現代」に作られた作品です。

ですが、きちんとトムとジェリーの原点ともいえる作画であったり音楽の使い方だったりと、オリジナルのテイストをきちんと踏襲しているというか、いい意味で「新しくない」んです。
いい意味でよ、いい意味で。
いい意味で「古き良きテイスト」がキチンと描かれている作品です。

いくら技術が向上したからといって「ドラ○もん」のようにCGで3Dなんかにする必要は全くないんですよね。
「トムジェリ」は2次元の世界で思う存分暴れるからこそ面白いんです。
そこを履き違えずに、キチンと「トムとジェリー」を作ってくれたことが何より嬉しい。

その上で、TVシリーズでは描けないような「心の脆さ」や「信じる力」などの大切な要素が丁寧に描かれていて子供にもちゃんと届く親切設計。
チャイコフスキーの名曲に合わせて様々な困難を乗り越えて進んで行くジェリー一行に胸が熱くなる(若干普段よりもお上品に感じるのはやっぱりクラシックのお陰なのかな?)。

大掛りな仕掛けとかはないけど、その分安心して見られるし、何より「トムとジェリー」の世界に浸れるってやっぱり子供の頃を思い出してちょっとおセンチにもなるのね。
ある意味では不思議なタイムマシンのような感覚がクセになるお気に入りの1本です。
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