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イヌミチのQTakaのレビュー・感想・評価

イヌミチ(2013年製作の映画)
3.5
「生きる」ってなんだ。
「生きている」ってなんだ?
そんなギモンにぶち当たる事がある。
でも、イヌになるかなぁ〜(笑)
面白い映画でした。
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年ごろの女は、いろいろ大変だ。
OLとしての成功。
女として、結婚、出産。
そこに、絡んでくる男。
女は、この時期を戦い抜いて、幸せを掴もうと必死だ。
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そんな中で迷い込んだ”イヌミチ”とは。

「選んで決めて、選んで決めて」
「何をそんなに選べるつもりでいるわけ」

「イヌになる」ということは。
全ての責任を脱ぎ捨てること。
自分で決めて生きていくことを捨てること。
イヌの生活が始まる。

やるべき事は、眠る事、食べる事、飼い主の帰りを待つ事。
難しい事は考えない。
イヌの道は、シンプルで盲目。

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一言で表現すると、「面白い映画」だった。
OLが、突然イヌの生活を始めるという奇想天外な物語であるが、その異常さがストーリーになっているのだから、奇をてらっただけの話でも無い。
「OLを飼う」って事でも無いので、エロでは無い。
本当に、「イヌミチ」を見せられて、その姿に何かを発見するのか、感じるのか。
それは、見てみて、自分が試されるところだろう。
この奇妙なイヌに何を思うのか、試されたのだろう。
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脚本は、この奇想天外で異常な展開を盛り込みながら、いくつものキーワードを放り込んでは拾っているようだ。
話の始めのOL同士の会話に出てくる”妊娠”すると…
良く眠れるようになるという下りが有る。
「イヌになってから、それまでの不眠が嘘のように眠れた」
という場面が有る。
実は、彼女は妊娠していた。

男に噛みついて、「イヌだって、吠えて噛みついて、意思表示するの」
後日、男は、携帯ショップの店長に噛みついて仕返しする。
男は、イヌになりたかったのだろう。
イヌにすらなり切れなかったのかもしれないけど。

「人間はもういいよ。イヌの方がいいだろう。」
「そうだね。イヌにもなれないか。」
ここで、”イヌ”というあり方がはっきり見えてくる。
こういうセリフもとても良く仕込まれている。

もう一つイイセリフが有った。
「この手は優しくて、もう少しイヌで居させて欲しいと思ってしまうほど。」
この詩のようなセリフは、少しこの映画の中では浮いている気がする。
このセリフをやり取りした公園のカットは、ちょっと違うテイストが有った。
でも、この会話がとても良かった。
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イヌになった三日間
飼われてみたら、あらゆる責任と関係を脱ぎ捨てる事が出来た。
背負っていた責任とは、自分が自分として認められていた関係とは。
はたして、そこに本当に自分がいたのだろうか?
そこで守っていたものは、自分に必要だったのだろうか。
仕事も婚約者も、お腹の赤ちゃんも、全てを断ち切った時、全てを失った時、女は…
誰かの何かではなく、自分が自分として生きるミチを選ぶのだろうか。
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この映画にたどりついたのは、映画『東京の恋人』の下社監督の映画製作の話からだった。
下社監督が、監督として以外に映画の制作に関わってきたという話を聞いて、どんな映画があるのか確認してみたかった。本作では、音楽を担当されている。
映画の現場がどんなものなのか知らないが、映画監督が映画の音楽を担当するというのが普通の事なのだろうか?
でも映画は、何でもやってみんなで作って行くものなのだろう。
それにしても、”映画美学校”ってなんなのだろう?
この映画の制作は、映画美学校のコラボレーション作品なのだが、監督、脚本、主演までみんな揃っちゃう集団って凄いと想う。
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この映画、どんな人にオススメかというと…
少なくとも、ワンコ映画じゃない事は確かです。
イヌ好き映画では無い。
むしろ、”人”の映画です。
真剣に生きている人に見て欲しい。
生き辛さを感じている人に見て欲しい。
誰もが、もっと自由に生きられるはずだという事に気付かせてくれる。
誰かのための自分じゃなく、自分が自分として生きるミチを見せてくれる。
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