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ショート・タームのvioletのレビュー・感想・評価

ショート・ターム(2013年製作の映画)
5.0

「どんなに教養があって立派な人でも、心に傷がない人には魅力がない。他人の痛みというものがわからないから。」

先日逝去されたフジ子ヘミングさんの言葉です。この映画を観て思い出した言葉。心に傷を負った人って、辛い経験をしてきた上に、その後の人生でも過去のトラウマに苛まれ、雁字搦めのままいつまでも報われない、そんな印象がある。

哀れみの目を向けられたり、自己憐憫がやめられなかったりする元凶としての心の傷。それを"魅力"として肯定しているこの言葉に、私は強く賛同します。傷ついた人は、強くて優しい人だと思います。


〈施設に保護されるティーンたち〉
中には暴言を吐きながら喚き散らしたり、暴力やドラッグ、自傷行為に走ってしまう子も。どんな子にも臆することなく向き合い、問題解決に奮闘する職員たちのプロフェッショナリズムを見て、魂が震えた。新人のネイトの存在が、それを一層引き立たせるのに一役買っていてとても良かった。


〈グレイスというキャラクターの深み〉
後半で、とあるショッキングな事実が明かされる。それを聞いて、仕事に対する彼女の原動力が分かったというか… なぜ彼女はそこまで頑張れるのか、なぜ彼女は子供たちに慕われるのか、点と点が線で結ばれた感覚がした。彼女は人として本当に立派だと思った。


〈グレイスとメイソンとの関係性〉
愛し合ってるのは明らかだけど、グレイスはどこか不安げで。自分の心の闇を打ち明けられないグレイスの気持ちがよく分かる。全てを受け止めてくれそうな人にさえ自分をさらけ出せなくて、それが原因で自己嫌悪に陥って、自ら相手を突き放しまって、独りぼっちになったことを悔やむ。その繰り返しなんだよね。
詮索せず、辛抱強くそばにいてくれたメイソン。そんな彼がついにグレイスに詰め寄るシーンは物凄くリアルで、双方の気持ちが分かるからこそ苦しかった。


〈心の解放を助けたジェイデン〉
グレイスの過去を知って唖然とし、頭を抱えるしかない私。いっぽうのジェイデンは全く動揺せず、静かにグレイスの話を聴いていた。「ジェイデンになら話せる」と、グレイスは感覚的にそう思ったんだろう。似た境遇をもつジェイデンとグレイスは、互いにとって重要な存在だったんだね。


〈リンクするオープニングとエンディング〉
メイソンの雑談に出てくる2人の施設出身者、ウェズリーとマーカスの対比にやられた。ウェズリーが悲劇的な末路を辿ったことが語られ、現実の厳しさを突きつけられる。しかし物語は、なんとも温かく素敵なマーカスのエピソードで締め括られる。シビアな現実を描きながらも、希望と優しさがずっと主役にいた。重くて苦しいけど、救われた。ラスト、全力で駆け抜けるサミーの目の先には、柔らかい光が見えたような気がする。
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