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ショート・タームのシネマノのレビュー・感想・評価

ショート・ターム(2013年製作の映画)
3.9
「生きるのは辛い、でも絶望しきるにもまだ早い。それくらいの優しさが世界にはまだあるはずだから」

公開された時からいつかは観たいと思っていた本作。
まさか5年以上も前の作品だということに驚きつつも、ついに鑑賞開始。

これだけ遅れたのも、あらすじからして気軽に観れる作品ではないような気がしたから。
いざ観始めてみると、やはり予想は当たっていた。

短期の児童保護施設を舞台にしているからには、
そこに登場する少年少女も、また職員さえも心に癒えきらぬ傷を抱え、影をもっている。
脱走やケンカ、禁止言葉、所持物など、ショート・タームでの問題ごとは尽きない。

幼少期に経験したことや家族との不和は、その人の人格形成に深く関わるからこそ、
登場人物たちの心に根ざした影は思わず笑みのこぼれる出来事や楽しいイベントだけでは到底癒せない。
本作は寄せては返す波のように、穏やかな時間と荒々しい時間が交互に訪れる。
まさに施設そのものが、ひとつの人の心を表すかのように。

そこに奇跡的で劇的な救いは訪れないし、ただただ人が生きて、支え合って、ときにはぶつかり合って。
分かり合いたくても、分かり合えなくて。
だけど、そんなでこぼこの心を皆がぶつけ合うからこそ、ピタリとは一致しなくても、少しだけお互いの心が引っかかり合ってつながる瞬間がある。
そんな瞬間の数々を、とても美しくとらえている作品だった。
その美しさとは、演出の見事さよりも、ただただ傷ついて涙しながらでも生きていくなかで生まれる人との絆にこそあって。
つまり、それは映画のなか、フィクションのなかでなく、現実の世界に存在する美しさだということ。

少年少女だけでなく、職員までもが共に心の影から光を見出していく構成はみっともなく映るかもしれないが、そんなことはないのだろう。
けれど、それによってショート・タームは狭いだけの施設から広がっていく。
心に悩みや苦しみを抱えた人がいる世界へ。
癒えぬ心の傷を真っ向からとらえながら、同時にまだ世界に残されている光をとらえていた作品でした。

個人的に嬉しかったのが、大好きなドラマ【アトランタ】でも存在感抜群のラキース・スタンフィールドの出演。
その表情と、心を映し出すラップが素晴らしかった。
エンディングで流れる「After Party」も彼の歌。
優しく体を揺らすビートに、怒りだけではないライム。
それは本作の未来なのだろうか、それとも平行世界か…
クレジットまで余韻に浸れる一作。
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