くりふ

陰獣のくりふのレビュー・感想・評価

陰獣(2008年製作の映画)
3.0
【乱歩から佐川君へ】

先日『舞妓はレディ』をみて何故か本作を思い出し、発作的に投稿。

公開時、ヘンな映画と期待してみた記憶が。

実際ヘンで客席から笑いも出ていたがコレ、乱歩というより、フランスから日本への偏見妄想素直に出しちゃいました、という映画と思った。が、ベテラン監督ゆえか、偏見に芯が通っており少し、感心もしたのでした。

概ね原作に沿った展開ですが、終盤で変化球投げていますね。原作の頃と比べ、女性の地位向上という世相が反映されています(笑)。

一方、ハリウッドがずっと描いてきた「男に何でもしてくれる日本女性」像も引きずっているところは、ハリウッドでも活躍していた古老監督らしい鈍感さだなあ、とも思った。あと、芸妓というものにこれだけ非現実な妄想を託してしまうのって、ガイジンならではでしょうね。

それに振り回されるブノワ・マジメルのマジメ演技が可笑しい。マヌケな人物ですが、そうでないと話が成り立たない。マジメなので、異郷に独り彷徨う迷宮感は少し出ていました。

…ところで、京の芸妓さんって皆ピストル持ってんですか?(爆笑)

要の芸妓役、源利華さんは、内から沸き起こるエロスが薄く、存在がやらせっぽい。撮られ方も美しき蛮人といったふうで、日本人視点からだと残念な感じでした。モデル出身だけあって身体のラインはキレイなんですけどね。

一番面白かったのは、黒幕である謎の作家、大江春泥の自画像。私にはこのモデルが「佐川君」に思えました。フランス留学中に、女子大生殺して喰っちゃったあの佐川君。

リアルタイムであの事件を知る世代なら、乱歩を介して日本人の不可解さ、猟奇性とあれを結びつけるのは何となく想像できるので、とても興味深かったですね。

<2015.6.16記>
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