イペー

ゼロの未来のイペーのレビュー・感想・評価

ゼロの未来(2013年製作の映画)
4.0
体毛もゼロの未来!

管理社会の恐怖を描いた『未来世紀ブラジル』
その現代版アップデートといった趣きを感じさせる、近未来SF映画。

レトロでアナクロな最新テクノロジーの描き方は相変わらずで、テリー・ギリアム監督のセンスが爆発しています。好みが分かれる所。

情報に支配され、人間性が希薄になった未来。主人公のコーエン・レスは会社から"ゼロの定理"を解くミッションを与えられます。難題に四苦八苦しながら、誰かから掛かってくる電話を待ち続けるレス。
常に自分の外側に救済を求めていて、内側の空虚さを強調しています。

主人公レスを演じるクリストフ・ヴァルツはツルツルです。実に分かりやすい形で、個性を剥奪された存在として画面に現れます。
無毛=無個性という事でもないでしょうが、昔のSF映画に出てくる未来人って、こんな感じ多いですよね。

自らを"我々"と呼び、人との関わりを避けていたレス。"個"が拡散した状態のレスとは対照的に、騒がしく"個"を主張する他の登場人物たち。彼らとの賑やかなやり取りを経て、レスも次第に自分を取り戻していきます。

観念的なセリフや、変テコな世界観にクラクラしますが、意外とストレートな自己回復の物語としても受け取れる気がします。
愛情とか、友情とか。もっと言えば、食欲とか、性欲とか。
中年男性を主役に据えた青春映画、というのは言い過ぎですかね。

ゼロは始まりであり、終わりでもある。過剰に圧縮された情報が自壊して、世界の中心に生まれたブラックホール。
レスがそんな混沌の瀬戸際に立って覗き込んだ未来は、ユートピアなのか、ディストピアなのか…。

ラストに流れる名曲。シンプルで美しいレスの姿に、少し胸が熱くなりました。

…ゴチャゴチャしたレビューになってしまいました。
ワケ分からん映画ですよ、実際。
自分はこの猥雑でいかがわしい部分も含めて、テリー・ギリアム作品のファンであります。
どこか懐かしい、未来!
イペー

イペー