MikiMickle

ゼロの未来のMikiMickleのレビュー・感想・評価

ゼロの未来(2013年製作の映画)
4.3
原題『THE ZERO THEOREM』
2013年 イギリス・ルーマニア・フランス・アメリカ映画
監督は『未来世紀ブラジル』などのテリー・ギリアム


近未来。
マン・コムという企業で働く天才エンジニアのコーエン(クリストフ・ヴァルツ)は、エンティティ解析という仕事をしているが、ある電話を取りのがしたくない為に会社に行きたくない。その要望を会社のボスである謎の男マネージメント(マット・デイモン)に伝えるため、上司のジョビーのパーティーへと嫌々ながら行く。そこでマネージメントと出会い要望は通るものの、新たな仕事は「ゼロ」という無の解明。自宅に何ヵ月も引きこもりなかばノイローゼになりながら、終わりのない仕事を続けるコーエンの元に、パーティーで出会ったベインズリーという女性が訪れ、そしてマネージメントの息子のボブという若者とも交流を重ねて行く。変わり者で人との交流が出来ないコーエンの心境に変化が…
しかし、ゼロの解明の先にあるものは…

近未来を描いたものながら、今現在をかなり風刺したものです。
で、それを重くしていないのが、さすがギリアムだと思うのです。ギリアムらしい下らない笑いもちょくちょく入る♪

コーエンのしている仕事はまるでゲームやパズルのようだし(3Dのテトリスみたい)、そもそもそこに意味などないように思えます。終わりのない無意味な仕事…
秋葉原をイメージしたという街並みは蛍光色に溢れ、それだけで見ていてかなり楽しいのだが、町中に溢れる動く広告は大衆的であり、押し付けがましく、混沌を感じる。ちょっとジョン・カーペンターの『ゼイ・リブ』の広告を思い出した。
公園には山のような禁止マーク。(このシーン、すごく印象的)
パーティーでの人々はタブレットやスマホを見ている。情報化社会。ネット依存。
いたるところにある監視カメラ。コーエンの住む、寂れた教会。キリスト像は頭がなく、その変わりに監視カメラが彼を見張る。世の中は、神ではなく、世界を牛耳る大手企業に支配されているのだ。

それが彼らにとっての日常。


そんな世の中で、ひとり生きるコーエンは、最初は変な変わり者ハゲおやじとして映るんだけど、実はまともなんではと思うのです。
頭の中は漆黒だが、コーエンの待つかかってこない電話は「生きる意味」を教えてくれるもの…

彼が心の拠り所にするベインズリーとのチープで美しい仮想空間での愛。リアルであり、リアルでない。垣間見る現実。

現実の人間関係に救われ、ユートピアのような仮想空間にその人間性と愛を求め、しかし現実と本能にしたがって生きて行くこともできず、更なる現実に打ちのめされ、漆黒を求める。
行きつく先のラストは素晴らしいです。沈んでいく夕日…
バッドエンドであり、ハッピーエンドでもある

「本当の幸せは限りなくシンプルなものである」

現代社会の風刺の中で、人間の繋がりの必要性をかんじた映画。

『未来世紀ブラジル』との相違点もよい。
相変わらず、テリー・ギリアムってば、ねじれた反骨精神! 好きだなぁ


ネットでやり取りするカウンセラーがティルダ・スウィントンで、すごい格好になったりしてて笑えた
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