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インポート、エクスポートのemilyのレビュー・感想・評価

インポート、エクスポート(2007年製作の映画)
4.3
交わらない二人の男女の厳しい現実をブラックユーモアたっぷりに描く。ウクライナで暮らすナースでシングルマザーのオルガは、生活難からオーストリアへ出稼ぎへ行き家政婦の仕事に、就くがクビになり、高齢者医療の病院で清掃員として働く。一方オーストリアで警備員をしているポールは、解雇され義父の仕事を手伝うためウクライナへ行く。

雪景色の中の通勤の姿から、病院の白へ。日々のルーティンを広角レンズによるシンメトリックな絶妙の構図で見せる。リアルなヒリヒリ感の中に見事なポスターのような構図と色使いが逆に皮肉に色づき、後味の悪い嫌な笑いを生み出していく。

ドキュメンタリーのように冷めた目線で見つめつつ、計算され尽くした構図や配置が見事な奥行き感を出し、超現実な空間の中で繰り広げられる社会問題を捉えた映像の数々が、不謹慎な笑いを生み出す。その絶妙な間と革新的な映像美の世界観にどっぷり浸って抜けだけない。

二つの国の間にある格差を描きながら、二人が描いた夢や希望は、そこにある現実の皮肉と残酷を目前に見事に砕け散っていく。
母国でひどい扱いを受けたのに、国が変われば同じように今度は自分が逆の立場に立ちパワーを見せつける。言葉の壁を逆手にとるが、どこへ行っても状況は変わらない。

女は死を間近にした人たちの中、ナースの仕事にも付けず掃除婦であるが、持ち前の美しさは最大の武器となる。男女の格差、立ち振る舞い方を非常にリアルに色濃く表現しており、寂しいそれぞれのダンスに集約されていく。生と死、静と動、性と生すべてがうまく絡み合い、それでも生きていることを痛切に突きつけてくる。

どこに行っても変わらない。結局自分自身が変わらない限り、すべては言い訳でしかない。でも確かにいえる。それでも生きている。失ったものの数だけ、苦労した数だけ、本当に大事なものがしっかり見える。それさえ見失わなければ、生活は苦しくとも心は裕福で居られるのだ。
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