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愛して飲んで歌ってのemilyのレビュー・感想・評価

愛して飲んで歌って(2014年製作の映画)
3.8
夫のコリンは医者で、患者のジョルジュが癌で余命いくばくもないことを妻のカトリーヌに喋ってしまう。おしゃべりな彼女はあっという間に友達のタマラに電話。ジョルジュの親友でタマラの夫のジャックは号泣し取り乱す。たまたま舞台に欠員が出たためジョルジュに代役をたのみ、彼の元妻や周りの女たちが彼の世話を通じ女として輝きを取り戻し。。

ポップにこれから始まる物語の舞台をアニメーションから切り替えていき、場所が変わるたびに外観の絵が挿入される。まるで演劇をみてるような舞台がコロコロ切り替わるが、常に家の外の庭が舞台となり、色とりどりな色彩の中で、不在の人物の"死"が会話のテーマとなり、彼らの単調な日常に目標を与え、エスプリの効いた大げさなまでの会話劇に、やがてあの頃の輝きが取り戻されていく。

舞台の中の舞台、影の主役はいっさい見せない、しかし見えないところでマリオネットのように無意識に操られ、舞台の練習のセリフの疑似恋愛にリアルな会話がのる。めくるめく思い出話から恋する少女の気持ちに舞い上がり、勝手な誤解により夢物語と現実が交差し、一人の男を巡って女たちも男たちも滑稽に翻弄されていくのだ。

ジョルジュの死は現実的に描かれることはなく、それ以上に"今この瞬間"の彼らの言動にスポットを当てることで、死がいかに普遍的で現実的でありながら、人は目前のことだけに気を取られて生きているかが、痛いほどシニカルに伝わる。葬式もポップな音楽が寄り添い、平面の舞台の中で、意味深な写真が飾られている。男も女も人のことなど見えてなく、人の死より目前の自分の問題に精一杯だ。死を軽く扱ってる訳ではなく、それは誰にでも平等に訪れ、日常の出来事と何ら変わりない、大したことではないのだと、今は亡き監督が笑顔で言っているようだ。
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