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パディントンのTTのレビュー・感想・評価

パディントン(2014年製作の映画)
4.5
いい。すごくいい。昔懐かしい家族向け娯楽映画の復権を宣言するかのような、クラシックで端正なコメディの良作。

お話自体は、まさに王道かつシンプル。藤子不二雄チックともいえる。今風のコミカルな要素も採り入れつつ、基本的なストーリー展開は非常にクラシカルで、余計な脱線は極力していない。ギャグについても、ジャングル育ちのクマがロンドンの都会にやって来て騒動を起こすカルチャーギャップ・コメディから、チャップリンやバスター・キートン的なスラップスティックなドタバタまで、極めてベーシックなところを押さえている。

また、クマのパディントンがブラウン家に拾われるシーンの後ろで「Lost&Found」という看板の「Found」が点灯するであるとか、「Taxi」かと思いきや「Taxidermist」だったという言葉遊び的な小ネタも面白い。

途中に出てくる家の壁を取り払ったドールハウス式のショットが『ライフ・アクアティック』みたいだったのは、ウェス・アンダーソン好きとしては思わずニヤニヤ。

そして、本作最大の魅力はなんと言っても、主人公のパディントンの愛らしさだろう。元々、パディントンの声にコリン・ファースが予定されていた。くまのプーさんみたいに、可愛いデザインなのに声がおっさんというのは、ギャップ萌えのようなのが出るから良い。おそらく、作り手たちもそれを想定して起用したであろう。しかし、本作のパディントンの容姿は、原作の児童文学の絵にあるぬいぐるみのようなデフォルメされたものとは違い、リアルなCGで実写の中に溶け込んだ本物のクマっぽい感じ。もし、そのままC・ファースが演じていたら、パディントンというよりは、ただのおっさん声のクマになってしまっていただろう。

監督もファースもそれを重々理解し、パディントン役にはもっと若くて明るい声の役者の方が良いという結論に達した。そこで白羽の矢が立ったのは、人気沸騰中のベン・ウィショー。しかし、この変更が功を奏したのか、今では彼以外には考えられないくらいハマっている。彼の素直な青年らしい声が、パディントンの好感度や、ロンドンでいろんな物に目を輝かせる際の初々しさに貢献している。

パディントンを剥製にしようとする学芸員扮するニコール・キッドマンの好演も忘れられない。特に、元夫であるトム・クルーズの大人気シリーズ『ミッション:インポッシブル』のパロディを恥も外聞もなく演じていたのには、頭が下がる(しかも、別のシーンで『ミッション:~』のテーマ曲が流れるw)。トムが信仰しているサイエントロジーに入信するために教団の施設に何日間も監禁されただろうに、ようこんなことやったもんだ。まさしく、女優魂というやつだ。

傑作とか野心作ではないが、パディントンの愛嬌や全編を覆い尽くす幸福感で、観終わった後はお腹がいっぱいになること間違いなしの良作だと思う。その証拠に、冷血動物な僕は劇場を出た後もニヤケが止まらなかったのであった。
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